どん底からの復活!自社製品開発で加工業からメーカーへの転身を図る笠原スプリング製作所。

笠原さん

今回は墨田区でプレス加工業を営んでいらっしゃる「笠原スプリング製作所」の笠原さんをご紹介いたします。

同社ではリーマンショックをきっかけに開発をはじめた「てのひらトング」によって大きく事業転換を図ることに成功いたしました。
自社製品開発に至る背景から苦労話まで、お話を伺って参りました。

 

−そもそも自社製品を開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

リーマンショックの影響で大口の取引先の取引が切れてしまって、何か自社でやらなければならないという状況になってしまったんです。色々と営業に回ったのですが、当時は世の中に仕事が少なかったので、簡単に仕事を獲得することはできませんでした。

そこで、仕事が減って自由に動ける時間ができたので、全く違うことをやってみてもいいかな、と考えたんです。そんな時に墨田区で「ものづくりコラボレーション事業」の参加企業を募集していて、藁をも掴む思いで応募してみました。

当事業に興味を持っていた会社は多く、応募企業も沢山いたのですが、プロデューサーに熱意が伝わったんでしょうか、見事に弊社が採択されたんです。

 

−「ものづくりコラボレーション事業」は具体的にはどのような取組みだったのですか?

当事業は、デザイナーさんが提案する商品企画をものづくり企業とコラボさせて、製品を開発する、という取組みです。「墨田区の文化」を象徴としたものを作ろうという企画で「花見」で使える商品がテーマとして持ち上がりました。その時に花見やピクニックでで使えるオシャレなトングということで「てのひらトング」のアイディアが持ち込まれたのです。

 

−その企画(てのひらトング)を最初に耳にした時の印象はいかがでしたか?

最初の印象としては、可愛くて売れるのではないかと思いました。

しかし、構造的にかなり難しいというのが直感で分かりました。これを本当に形にすることができるのか。技術的に難しいのではないかと感じました。

こういう商品を作っている会社は女の子との会話の話題になりそうだなとも(笑)。昔、趣味でやっていたバンド活動に相通ずるものがありました。

 

−開発では相当苦労されたとお伺いしていますが?

プレスでやるとどうしてもしわが寄ってしまい、なかなか完成することができませんでした。新潟の洋食器製造メーカーなんかも紹介してもらい相談をしましたが、その会社でも同じような形状のプレスで失敗をしていたので話も聞いてもらえませんでした。しかし、何度も交渉し工場見学をさせてもらいました。

パーツを分解して製造するなど提案を受けましたが、そうすると溶接などの工程が入ってしまいます。どうしても一体成形にしたかった。
山梨にある著名な金型メーカーに相談したところ、丸みを出すところまでできるようになりましたが、最終的に抜くことができなくなり、完成に至りませんでした。

その間も仕事量は回復せず、いよいよ本格的にヤバい状況になってきました。そんな中、墨田区の技術アドバイザーに毎週のように相談したところ、何とか形にできるようになってきました。

 

−相当なご苦労をされたんですね。。

1年半以上開発に時間が掛かり、ようやく製品ができ、パッケージができあがる直前に今度は東日本大震災が起きました。それで販売までさらに期間が伸び、ようやくその年の5月頃に発売することができました。

ところが、作るのに精一杯でどうやって売れば良いのかを考えなければならなかったんです(笑)

製造マシン

−どのようにして「てのひらトング」を広めていったんですか?

最初はおしゃれな雑貨屋をインターネットで探しては問合せフォームから売り込みのメールを送りまくりました。

ほとんどが無反応だったのですが、ようやく青山の雑貨屋に話を聞いてもらうことができました。しかし、商品ラインナップがないのかと言われ、1つしか商品がないと答えると話にならんということになり、同じコラボレーション事業を行っていた墨田区のチームで営業にいきました。

その時は完全に作り手目線の技術話が中心で営業になっていませんでしたね(笑)

 

−活路はどのようにして開けていったのですか?

色々と動いているうちに渋谷の東急ハンズの催事で取り扱ってくれることになりました。大手に取り扱ってもらえんだから飛ぶように売れると思い、100個ぐらい持っていったが、売れたのは結局5、6個ぐらいでした。

しばらくはどうしようもない状況が続きました。

転機が訪れたのは2つあって、1つは墨田区から派遣された中小企業診断士さんからTASKものづくり大賞に応募しようと提案されたことです。既に応募していたすみだのブランド認証(てのひらトング)、TASKものづくり大賞(てのひらサラダトング)を受賞することができました。

その流れで、販路開拓ニューマーケット支援事業(大手のOBであるナビゲーターが販路を紹介してくれる)で支援してもらえることになりました。

2つ目に、区の紹介で最初に出演した「ガイアの夜明け」です。既存事業と全然違う分野への挑戦というのが評価され取材して頂けました。
余談ですが、その時に取材に来た江口洋介がてのひらトングを数個購入したんです。おそらく奥さんのあの有名な元アイドルが台所で使ってるんじゃないですかね。それを考えただけでモチベーション上がりませんか(笑)

 

−それはテンション上がりますね(笑)、それにしても本当にたくさんのメディアに露出されてますよね!

ガイアの夜明けをきっかけに、メディア取材の連鎖が起きたんです。TV、雑誌、新聞と色々な媒体の取材が入るようになり、もう訳が分からないぐらい取材を受けまくりました。

一番反響があったのは大阪の地方番組の「ちちんぷいぷい」です。これに取り上げられた時の反響はスゴかった。この番組は東京で言う「王様のブランチ」的な番組らしく、大阪の知人から「すごいね」って連絡がたくさん来ました。単なる製品の紹介だけでなく、取組みの経緯や製品開発の想いなどを伝えることができたのと、大阪の吉本芸人に対し思う存分私のキャラクターを披露できたのが大きかったのかも知れません。たくさんボケたのにほとんどカットされましたが(笑)

 

−笠原さんのナイスキャラがお茶の間に受け入れられた瞬間ですね(笑)。その後はどうなったんですか?

今では何とフランスのセレクトショップでも売られるようになりました。そして、フランスでもデザインと製造業の新たな挑戦というものが受け入れられたようでたくさん売れているんです。当時、あまちゃんが流行っていたので、思わず「じぇじぇじぇ」と叫びましたよ(笑)

 

−現状の販売状況はどんな感じでしょうか?

販売数の波はありますが、もともとやっていた本業に比べてもかなり大きいインパクトになってきていて、売上30%ぐらいになってきています。1製品が占めるインパクトとしてかなり大きいんじゃないでしょうか。

 

−次なる展開としてのお考えはありますか?

今後も新しい製品の開発を行っていきたいと考えています。1製品だとなかなか取り扱ってもらえないので、製品ラインナップとして提案できるようにしていきたいです。

工場見学していただく機会も増え、こんなの作れないかという相談も多く入るようになりました。その中から新しい製品が生まれる可能性もあります。様々な可能性を模索していきたいと考えています。

 

−製品開発をするようになってから笠原さんの中で変わったことはありますか?

今までは誰が使ってるか分からない製品を作っていたので、製品に対する愛情はうすかったのですが、今では使ってくれる人の顔が想像できるようになりました。そのお陰ですべての仕事に対して愛情を持って製品を作るようになったのが大きな変化だと思います。本業に対する仕事の取組み方も変わりました。

また、自社製品を持つメリットとして、それ自体が儲けを生まないとしても、売上以上にコマーシャル的な効果は大きいと思います。

手のひらトング

・・・そんな取材中にも、TVを見たからと購入の連絡が入っていました。自社製品の開発をきっかけに大きな経営革新を成し遂げた「笠原スプリング製作所」。今年はものづくり補助金の活用による設備投資も行い、攻めの姿勢を継続する予定です。

更なる成長を遂げる同社に今後も目が離せません。

 

↓てのひらトングの購入はこちらから↓

http://kasahara-spring.com/tenohiratong.html

 

この記事の執筆者
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徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

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