ガイアの夜明けを見た感想 ~世界で勝てるものづくり~

4月17日(火)に放送されたガイアの夜明けのタイトルが「世界で勝てるものづくり」という非常に興味深いタイトルだったので、視聴しました。

基本的には大手メーカーの海外戦略の話でしたが、色々と考えさせられる内容だったので、ご紹介させていただきたいと思います。

Panasonicの白物家電事業でのグローバル戦略の話が冒頭のテーマでした。

インドの白物家電業界では日本企業が大苦戦を強いられているようです。その理由は明快で、「現地標準価格よりも高すぎる」ことと、「現地ニーズに適した商品開発が出来ていない」ことが挙げられます。

現地でのマーケティングに本腰を入れ切れていなかったせいで、韓国メーカーにシェアを大きく奪われてしまっている状況だそうです。韓国企業は現地の生活研究をしっかり行った製品開発ができており、現地の人に受け入れられています。

シェアの差は非常に大きく、冷蔵庫市場の関して言えば、韓国メーカーのLGが58.4%に対し、日本のPanasonicはわずか1.3%しかないそうです。

当テーマでの大きく取り上げられていたのはPanasonicのエアコン市場戦略の話でした。エアコン市場もインドでは韓国メーカーに大きく差をつけられており、LGが51.8%に対し、Panasonic3.9%程度だそうです。

エアコンは窓の隙間に設置するウィンドウ型(室外機と一体型)と、エアコン本体と室外機分離されているスプリット型(日本ではこちらが主流)があり、インドでは機能が劣るが価格面で優位性のあるウィンドウ型が主流です。

ウィンドウ型における一番の弱点は窓の隙間に設置するため、窓の大部分が塞がってしまい、室内に入るはずの光を遮ってしまうことでした。

そこでPanasonicはが直接安いが、機能を最低限に絞りウィンドウ型並の安いスプリット型を作るという製品開発を行ったそうです。

過去の反省を活かし、価格面だけでなくインド人の生活研究を十分に行なった上で、製品開発を行い誕生したのが、「キューブ」というエアコンです。

価格競争力と機能面の優位性によりキューブはインドで大ヒット商品となりました。

こう書くと「価格」と「顧客のニーズ」というマーケティングの基本要素を押さえただけじゃないか、という印象を受けますが、実際の製品開発はそんな簡単な話では無かったと思います。

なぜなら顧客のニーズを掴むためには、現地の生活習慣を知るだけでなく、宗教や価値観なども知る必要があるはずだからです。現地の信頼できるパートナーとの協力関係は必須ですし、開発だけでなく製造工程における従業員の採用・教育、品質の管理など、現地を任されたPanasonic責任者の方のご苦労を感じました。

次のテーマはHondaの海外戦略(二輪車市場)の話でした。

二輪車の国内市場はピークだった328万台/年から44万台/年にまで縮小してしまっています。

いまHondaが力を入れているのは車は買えないが、バイクは買える層が多くを占める新興国市場のシェア獲得です。インドネシアの二輪車市場ではHondaのシェア53%まで獲得できています。

前述のPanasonic同様、現地でのマーケティングに力を入れた製品開発の話で、インドネシアでは排気量の大きさ、先進的なデザイン、経済性などがニーズとして多かったことを新製品の開発に活かしたそうです。部品点数の削減(200点⇒180点)をすることで生産コストを削減し、販売価格を抑えながらも利益を確保しているそうです。

同様の戦略で次はどの新興国を攻めようか考えていて、次の市場はアフリカ辺りが候補として挙がっているらしいです。渡り鳥のように次から次へと国を変えていかなければならず、これが拡大し続ける運命を背負った大手メーカーの宿命なのか、、、と感じてしまいました。

番組を見る中で、大手企業がいわゆるボリュームゾーンの市場を狙っていく一方で、我々中小企業が目指すべきはニッチマーケットだと改めて思いました。ニッチマーケットであれば、大手企業が参入してこないし、競争原理が働きにくいので、売上の規模は大きくなりませんが利益のとれやすいビジネスができるはずです。

しかし、ニッチマーケットを攻める際のデメリットはマーケティングの難しさにあると思います。ボリュームゾーンを狙いにいくのであればある程度ターゲットを決めて、ターゲットユーザのニーズをまとめて商品化していくという方法が資金さえあれば容易に行うことができます。

それに対し、ニッチマーケットを狙っていくには、ターゲットユーザの中から敢えて特殊なニーズを抽出し、そのターゲットが満足する商品を作っていくことになります。ある程度「欲しいと思っている人のボリューム」が分かれば安心して製品開発に入れますが、本当に売れるかどうか分からない半信半疑な状態で製品開発に入らなければならなくなります。

その恐怖に負けてボリュームゾーンを攻めたところで大手企業と競合し負けるのは目に見えています。なぜなら、ボリュームゾーンの顧客が抱えるニーズの共通項としてコスト(販売価格が安いこと)は必ず付いてくるもので、コストリーダーシップ戦略は大手企業の得意ゾーンといえるからです。

我々も中小製造業の支援を行なっていく中でニッチマーケットのマーケティングの手法に関しては大きな課題として感じています。この手法なくして中小企業の製品開発支援は有り得ないと考えているからです。逆にこの手法を確立すれば様々な製品開発の種が生まれるのではないかと感じています。

試行錯誤していきながらいつか手法を確立させたいと思います。

この記事の執筆者
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徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
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