事業承継後の経営をDXにより切り拓いた製造業の事例

【執筆者紹介】一之瀬 隼
この記事の執筆者
一之瀬 隼
現役エンジニア、製造業系ライター
執筆テーマ:標準化、自動車、ロボット、他製造業全般

【経歴】
工学系の大学を卒業後、現職に就職し組み込みシステム開発のエンジニア業務に従事。先行開発、量産開発と並行しながら、技術標準化や海外子会社への技術伝承を通して会社を強くする活動に取り組む。
自動車を軸に材料・生産技術・開発方法など、現役エンジニアとしての視点を文章に落とし込むことを意識しながら、ライター活動を行っている。
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製造業のように老舗企業が多い業界では、高齢化が進みIT化が遅れている中小企業が多くなっています。このような業界でDXを活用することは、インパクトの大きい経営革新につながる可能性を秘めています。

しかし、高齢化した企業ではDX推進を担える人材の採用や育成が難しいため、現実的には後継者に事業承継をする際に、後継者がDX推進を担うのがいいきっかけとなります。実際に、経営者の世代交代が第二創業と呼ばれるような経営革新を可能とし、企業を発展させた事例もあります。

DXを推進するためには、先代の経営者は後継者が若い時期に事業承継をするか、承継前でも後継者に対する権限移譲や従業員からの反発が出ないような環境づくりを進めることが重要です。

この記事では、事業承継後の経営をDX(デジタルトランスフォーメーション)によって切り拓いた製造業の事例を紹介します。

DXとは?

DXはデジタルトランスフォーメーションの略称ですが、人によって解釈が異なる場合があります。参考までに、経済産業省のDX推進ガイドラインには、以下のように記載されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

多くの場合、このような定義で使われています。

DXが経営を切り拓くアイテムとなる3つの理由

DXが経営を切り拓くアイテムとなる可能性として、以下の3つが理由として考えられます。

1.従来事業からの転換や新たなビジネスの追加

経済産業省が発行している2021年版のものづくり白書では、さまざまな製造業がDXに取り組んでいることが紹介されています。DXを活用することで、従来から取り組んでいた事業を転換したり、新たなビジネスモデルを追加したりできる可能性があります。

従来から行っている製品の製造だけでなく、そこで収集・蓄積したデータ自体を販売したり、データを用いた新たなサービスを生み出したりできるでしょう。

2.業務効率化・生産性向上

自社工場内の設備やセンサーをネットワークに接続することで、さまざまな情報を得ることができます。このデータを活用することで、不良に気づくまでの時間を削減したり、設備同士を連動させたりすることができ、従業員の負荷軽減や生産性の向上につながるでしょう。

これらの取り組みによって従業員のワークライフバランスが向上すれば、モチベーション向上により自発的なスキルアップにつながることも期待できます。

3.ノウハウ蓄積・教育

製造業では、若い職人への技術・技能伝承が課題の一つとして挙げられます。DXを活用すれば、熟練した職人のノウハウや技術を、センサーを活用することでデータ化し、蓄積できます。

また、web会議システムなどを用いることで、技術の伝承が難しい遠隔地であってもノウハウを伝える機会を作ることができ、若い職人の能力向上が期待できるでしょう。

他にも、ディープラーニングなどのAIを導入することで、数値化・説明が難しかった加工条件を明確にし、再現性を高めたり、よりよい条件を発見したりできる可能性が考えられます。

DXにより経営を切り拓いた製造業とBtoBの事例

ここでは、DXにより経営を切り拓いた製造業とBtoBビジネスを行っている企業を3社紹介します。

旭鉄工株式会社

旭鉄工株式会社は、大手自動車メーカー向けの部品を製造する自動車部品サプライヤーです。

2016年に代表取締役社長に就任した木村社長は、ドイツや国内の中小企業視察を通し、国内では中小企業向けのIoTツールが不足していることに気づきました。

そこで、まずは自社向けに設備投資や人件費、工場スペースの拡張を抑制するためのシンプルな構成のIoTツールを開発しました。これを他社にも提供するために「i Smart Technologies」を新たに立ち上げています。

現在は自動車部品に加えて、他社向けにIoTツールの提供も続けています。

株式会社木幡計器製作所

木幡計器製作所は、圧力計の製作や販売を行う企業として1909年に創業された計測・制御機器の老舗メーカーです。

2013年に現在の社長である木幡巌氏が代表取締役社長に就任しました。当時は主力業界である圧力計市場全体が縮小傾向であったため、社内で募集した意見から、新たな取り組みとしてIoT圧力計を開発に取り組みます。

2017年には「先進的IoTプログラム支援事業」の支援を得て、後付けIoTセンサ・無線通信ユニットを開発。現在では、IoTに関する技術をいかして新たに医療機器事業にも進出しています。

株式会社大都

株式会社大都は1937年創業の総合商社でしたが、実質代表を務めるようになった山田岳人代表取締役社長(2011年~)によって、DIY市場のeコマースを主なビジネスとしています。

eコマースの導入拡大によって煩雑になったFAXなどの業務も、自社開発のツールを取引先にも導入してもらうことで、大幅な効率化を実現し、従業員の満足度を向上しました。

現在では、eコマース市場をより活性化させるために、DIY版のクックパッドのようなアプリを開発しています。DIYで何かを作りたいと考えた場合に、経験がなくてもアプリを参考にすれば作れるようにすることで、eコマースでの売り上げ拡大に貢献しています。

まとめ

中小製造業を取り巻く状況は年々厳しさを増しており、事業承継を考えるタイミングで会社をたたむ選択をする経営者も少なくありません。

しかし、事業承継のタイミングは「第二創業」とも呼ばれるような経営革新を起こす貴重な機会でもあります。経営革新を実現するアイテムとして、DXへの取り組みは重要な選択肢であり、実際にさまざまな企業がDXにより経営を切り拓いています。

さまざまな会社の事例を参考にし、自社の状況を改善する際にDXが使えないか、検討してみるといいでしょう。

この記事の執筆者
一之瀬 隼
現役エンジニア、製造業系ライター
執筆テーマ:標準化、自動車、ロボット、他製造業全般

【経歴】
工学系の大学を卒業後、現職に就職し組み込みシステム開発のエンジニア業務に従事。先行開発、量産開発と並行しながら、技術標準化や海外子会社への技術伝承を通して会社を強くする活動に取り組む。
自動車を軸に材料・生産技術・開発方法など、現役エンジニアとしての視点を文章に落とし込むことを意識しながら、ライター活動を行っている。
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