折角の商標登録が消滅してしまう場合

【執筆者紹介】亀山 夏樹
この記事の執筆者
亀山 夏樹
役職:かめやま特許商標事務所 所長 弁理士
執筆テーマ:中小企業における知的財産(特許・商標等)
【経歴】
千葉県生まれ
筑波大学院 理工学研究科 理工学専攻 修了(1999)
電気メーカにてネットワーク機器の商品企画・開発設計に従事(~2004)。
その後、特許業界にて、特許・商標等の出願業務の他、契約交渉、技術開発支援、セミナー講師などを行う。
技術分野:金型、工具、ソフトウエア、鉗子、内視鏡、医療機器、筆記具、塗料、食品等
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中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、中小企業の方が忘れがちな「商標登録の消滅」についてお話したいと思います。

商標登録が消滅してしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由としては、以下の4つがあります。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

異議申し立てについて

制度概要

特許庁の審査結果(商標登録のみ)について、第三者チェックの機会を与えるために制定されています。申し立てできる期間は、商標公報(*)の発行後から2か月以内に限られます。(*商標公報:商標権設定登録後に発行されます。)

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 417
  • 請求(一部成立含む)成立 35
  • 請求不成立・却下 236
  • 取下放棄 58

となります。

申立数417件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.34%と結構レアです。また、申立人側の勝率は、8.3%(417件中35件)といったところです。

無効審判について

制度概要

異議申し立てと似ている制度です。こちらも、私益的・公益的の両面からのチェックする制度ですが、設定登録の日から5年を経過すると、無効理由は公益的なものに限定されます。無効審判の請求は、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 98
  • 請求(一部成立含む)成立 26
  • 請求不成立・却下 35
  • 取下放棄 15

となります。

請求数98件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.08%ということで、かなりレアです。また、請求人側の勝率は、26%(98件中26件)といったところです。

取消審判について

取消審判としては、不使用取消審判、不正使用取消審判、国内代理店等による不正な商標登録に対する取消審判がありますが、取消審判のほとんどは不使用取消審判ですので、不使用取消審判について説明します。

制度概要

日本の商標法では、登録主義(使用していなくても、登録されていれば商標法の保護を認める考え方)を採用していますが、登録主義にも次のような問題があります。

  • 問題1:不使用のままの登録商標が増えてしまうと、第三者が使用したいのにも関わらず、先登録の事実のみによって、登録も使用できなくなってしまう(これは不合理だ)。
  • 問題2:使用していない登録商標なんて、そもそも信用が化体しない(≒のりうつらない)ので、商標法で保護する必要もないよね。

このような問題の是正のために、不使用取消審判が設けられています。不使用取消審判の請求は、登録後から3年経過後の商標権であれば、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 1045
  • 請求(一部成立含む)成立 858
  • 請求不成立・却下 80
  • 取下放棄 88

となります。

請求数1045件について、2018年の登録査定件数(119610件)に対する割合は、0.87%ということで、レアです。また、請求人側の勝率は、82%(1045件中858件)といったところです。発生頻度はレアですが、異議申立や無効審判に請求されると負ける確率が高いところが特徴です。なお、弊所の実務レベルでいうと、年に3~4回、このような相談を受けます。

存続期間満了(更新手続き忘れ)について

制度概要

日本の商標法では、10年ごとの更新手続きによって半永久的に商標権を維持することができます。ここは、特許権・実用新案権・意匠権とは異なる部分です。

発生頻度

統計データがないのですが、弊所の問い合わせレベルでいうと、年に1~2回、このような相談を受けます。10年という長期の期限管理が必要になるため、途中で忘れてしまう人が多いようです。

注意すべきこと

異議申し立て・無効審判

権利者側から見れば、これは避けられません。公報発行後、二か月の辛抱です。ただし、逆の見方をすれば、公報の定期的チェックにより、自社ブランドと紛らわしい商標登録をいち早く発見し、異議申し立てによって、紛らわしい商標登録を取り消すことも可能です。費用的には、無効審判よりも異議申し立ての方が安価に済むことが多いので、まずは、異議申し立てを選ぶ方が多いでしょう。

不使用取消審判

特に、商標権者やライセンシーが、継続して3年間、登録商標を使用していないときは、取消の対象になります。このため、登録商標を指定商品について使用してください。特に、設定登録直後は問題ありませんが、3年が経過すると不使用取消審判の対象になるため、注意が必要です。また、「現在の登録商標の使用方法が、商標法上の使用になっているか否か」について自信がない場合には、お近くの特許事務所にご相談ください。

存続期間満了(更新手続き忘れ)

10年ごとの期限管理に自信があれば、ご自身で行っても良いと思います。しかしながら、期限管理に自身のない方は、特許事務所の専門サービスを利用された方が良いと思います。

万が一、消滅してしまった場合にはどうすれば?

残念ですが再出願するか名称変更するかしかありません。どちらが良いかはケースバイケースですのでお近くの専門家にご相談下さい。

まとめ

  1. 商標登録の消滅事由は意外と多い。
  2. 特に気を付けるべきことは、不使用取消審判と存続期間満了(更新手続き忘れ)。
  3. 不使用取消審判対策は、登録商標を指定商品について使用すること。「商標法上の使用」に自信がなければ、特許事務所に相談する。
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)対策は、期限管理を行うこと。期限管理に自信がなければ、特許事務所に依頼する。

この記事の執筆者
亀山 夏樹
役職:かめやま特許商標事務所 所長 弁理士
執筆テーマ:中小企業における知的財産(特許・商標等)
【経歴】
千葉県生まれ
筑波大学院 理工学研究科 理工学専攻 修了(1999)
電気メーカにてネットワーク機器の商品企画・開発設計に従事(~2004)。
その後、特許業界にて、特許・商標等の出願業務の他、契約交渉、技術開発支援、セミナー講師などを行う。
技術分野:金型、工具、ソフトウエア、鉗子、内視鏡、医療機器、筆記具、塗料、食品等
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