フリーランス翻訳家にインタビュー①「カナダ在住のM.H.さん」前編

テクノポートの稲垣です。今回はインタビュー企画として、カナダで病院関係のお勤めの傍らでフリーランス翻訳家として活躍するM.H.さんにインタビューを行いました。本企画の目的は、海外進出に欠かせないホームページを英語翻訳しようと考えている製造業事業者の方に有益な情報をお届けすることです。前編の今回は、

  • 「日本語から英語への翻訳で難しいことは?」
  • 「英語に訳しにくい日本語の文章は?」
  • 「非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?」
  • 「機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?」

などの質問に対し、カナダ現地企業で働きつつプロの翻訳家として活躍する方の意見をお届けします!

M.H.さんについて

M.H.さんの経歴は?

学士は日本で工学部の機械工学科でとりました。その後、日本の外資系の医療機器メーカーに就職し、医療機器の営業をしました。3年半ほどその会社で勤めた後、カナダの大学院に留学して修士課程を血流工学というテーマでとりました。その後、カナダにある日本の医療機器メーカーに就職し、多くのカナダ人の方と働かせていただきました。1年ほどその会社で勤めた後、同じくカナダにあるトロント大学で生体工学を専攻し博士課程をとって、現在、現地で病院関係の仕事をしています。

カナダの大学院に留学した理由は?

理由は大きく2つあります。

1つ目は、学部時代に3カ月ほど研究室留学をしたカナダで修士課程をとってみたいと思ったからです。

2つ目は、奨学金がもらえるからです。理工系に限って言うと、カナダの大学は世界中の国から優秀な学生を集めるために、大学院生には返済不要の奨学金を提供していることが多いので、カナダの大学院に応募しました。あとは、学部時代の教授に知り合いの先生を紹介してもらったということも影響しています(笑)。

博士課程に進学した理由は?

研究者として働くうえで、修士号では不十分だと思ったからです。医療機器メーカーでお医者さんと共に働いていると、やっぱり修士課程卒の人よりも博士課程卒の人の方が対等に議論に参加できると感じました。

あとは、アメリカやカナダでは日本に比べて修士から博士に進学する人の割合が多いので、周りに研究者の方も多かったということも影響しています。

翻訳作業について

翻訳作業の流れは?

題名や、まとめが最初にある場合を除き、基本的には頭から一文ずつ順番に訳していきます。その際は、常に前後の文の内容を考えながら訳すように心掛けています。

注意することとしては、スタイルガイド(固有名詞の翻訳ルールなどを取りまとめたもの)があればそれを参照にしながら翻訳します。スタイルガイドには、「この単語にはこの訳をつけてください」というルールが記載されているので、それに従って訳すことが必要になります。特に、人の名前、製品名に関する間違いは細かくチェックするようにしています。

日本語から英語への翻訳で難しいことは?

日本語の文章には「~など(等)」が多くて訳しにくいことですね。

例えば日本語の文章だと、「医療機器など(等)」という表記がタイトルにも使われますが、英語でタイトルに「~など(等)」とつけることは少ないです。もし、英語の文章で「~など(等)」を使うなら、「これ」と「これ」というように具体的な対象を指定して書くのが普通です。なので、日本語の文章の「~など(等)。」を見ると、「など(等)。」って結局なんなの?って思ってしまいます(笑)。

英語に訳しにくい日本語の文章は?

曖昧で推測しないと読めない文章が訳しにくいです。

具体的には、文章の主語が抜けていたり、省略が多かったり、「~など(等)。」が多用されている文章です。あとは、文章中に使われている「それ」や「これ」などの代名詞が具体的に何を指しているのかが不明確な文章です。

逆に言えば、日本語の文章の翻訳を依頼する方は、これらのことに気を付けて日本語の文章を用意していただけると翻訳者も訳しやすいと思います。

HPの文章翻訳と技術的文章の翻訳の違いは?

大きな違いは2つあります。

1つ目は、翻訳に使われる語彙が違います。具体的には、HPの文章翻訳のターゲットは一般の消費者であることが多いため、難しい表現を使わない傾向があります。一方で、技術的文章のターゲットは技術者なので、専門用語が多く使われています。

2つ目は、文章の表現方法が違います。具体的には、HPの文章翻訳は意訳が多く使用され、分かりやすく印象に残りやすい文章表現を使用する傾向があります。一方で、技術的文章の翻訳は意訳が少なく、元の文章に忠実に翻訳するという違いがあります。

翻訳の品質について

誤訳やその他のミスを防ぐために行っていることは?

ミスを防ぐために行っていることは大きく2つあります。

1つ目は、固有名詞の間違いに注意することです。先ほども言ったように、人の名前、製品名を間違えて翻訳されている文章が多いです。人の名前や製品名は国によって呼び方が変わってくるからだと思います。なのでそれらのミスを防ぐために、私の場合はスタイルガイドがあればそれを参照にして翻訳しています。もし、スタイルガイドがなければインターネットで一つ一つの固有名詞を検索して、あっているかどうかを確かめるようにしています。

2つ目は、翻訳した文章を次の日にもう一度読み返すようにしています。急いで翻訳した文章を次の日にもう一度読んでみると、正しく翻訳されていない箇所に気づく、ということはよくあります。

非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?

大きく3つあると思います。

1つ目は、翻訳者とは別のチェッカーにチェックを依頼することです。これは日本語の文章でも同じだと思いますが、自分では気づかないような間違いを他の人に指摘してもらえる、という点で有効だと思います。

2つ目は、固有名詞が正しく使われているか確認することです。確認する方法は先ほども言ったように、一つ一つインターネットで調べる方法が良いと思います。例えば、会社のHPを見れば、正しい表記の製品名、社長の名前などが見つかると思います。

3つ目は、文章の抜けがないかチェックすることです。これは、日本語の原稿が翻訳されずに飛ばされる、というミスが起こることもあるからです。

適切な翻訳者の選び方は?

翻訳する文章に関する知識がある翻訳者に依頼するのが良いと思います。

専門的な言葉を理解できるか、企業から提示された内容を正しく理解できるか、といったことが分かりやすい翻訳につながるからです。例えば、翻訳とは別の話ですが、英語の長い文章を短く要約する際にも、内容が理解できていないと重要な部分が分からないので上手な要約ができないことと近いと思います。あとは、背景知識があれば原本に間違いがあるケースにも気づくことができるというメリットがあります。

翻訳された文章のチェックに関して言えば、日本語と英語の両言語に精通したチェッカーに依頼するのが良いと思います。なぜかと言うと、両言語理解していないと気づけないような間違いを見逃してしまうことがあるからです。

翻訳した文章をチェックするチェッカーは必要?

必要だと思います。先ほども言いましたが、自分では完璧な文章だと思っていても、他の人から見たら間違いを含んでいるということがあるからです。なので、チェッカーは翻訳者とは別の方に依頼すると良いと思います。

機械翻訳について

機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?

最大の違いは文脈まで考慮して訳せるかどうかです。

機械翻訳は一文ずつ別の文章として翻訳するため、翻訳された文章には前後のつながりがありません。例えば、文章の主語がなかったり、次の文章で主語が初めて出てくるような文章を機械翻訳で翻訳すると分かると思います。なので、小説のように前後のつながりを考えて翻訳する必要がある場合、機械翻訳のみだと不十分だと思います。

ただ、近年機械翻訳の翻訳精度はすごく良くなっているので、一文ずつ内容が完結している文章を訳す場合には機械翻訳のみで良いかもしれません。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「日本語から英語への翻訳で難しいことは?」
→ 「~など(等)。」が指すものが不明確で訳しにくい

「英語に訳しにくい日本語の文章は?」
→ 曖昧で翻訳する際に意味を推測する必要がある文章

「非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?」
→ 1. 翻訳者とは別のチェッカーに依頼する、2. 固有名詞が正しく使われているかをチェックする、3. 文章の抜けがないかチェックする

「機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?」
→ 文脈まで考慮して訳すことができるかどうか

となります。後編は、カナダから見た日本企業日本人の英語新型コロナウイルス(2020年5月27日インタビュー実施)というテーマを掘り下げていきます。具体的には、

  • 「日本人労働者のポジティブなイメージは?」
  • 「日本人労働者のネガティブなイメージは?」
  • 「日本人が英語話者と正しく意思疎通をするためにすべきことは?」
  • 「新型コロナウイルスが日常生活に与えている影響は?」

などの質問に答えて頂きました!後編を読んでいただたくことで、カナダ企業と日本企業の働き方に関する考え方の違い、非ネイティブがネイティブと効果的に意見交換する方法がお分かりいただけると思います。

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