世界の製造業インタビュー②「先進国フランスの試作市場へ」後編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第2回目後編の今回は前回の記事に引き続き、切削部品加工受託業でフランスに事業展開を果たした、株式会社ダイショウの石塚社長へのインタビューをお届けします。後編の今回は、

  • 「フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?」
  • 「フランス企業と比較した時の日本企業の特徴は?」
  • 「日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?」
  • 「アジア系の人、企業に対して差別はある?」

などの質問に対し、現地で会社を運営する方の生の声をお届けします!

フランス進出について

ドイツ進出とフランス進出の違いは?

私個人としては、ドイツに進出する方が楽だと思います。なぜかと言うと、ドイツは今までの進出してきた日本企業とのつながりが多いからです。要は、歴史や経験値がフランスよりも深いということです。今私が言ったことは、実際に展示会に行ってみるとよく分かると思います。ドイツの展示会に出展している日本企業の数は、フランスのそれと比較すると断然多いです。なので、一般にフランスに進出しようとする日本企業の数は、ドイツに進出しようとする企業に比べて格段に少ないように感じます。

ですが、フランスに進出のチャンスがないわけではない思います。自分の仲間内ではフランスは日本人が想像するより工業国だよ、進出のチャンスはあるよ、という話をよくしますからね。

フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?

一つ確実に言えることは、ヨーロッパに支社を設けた方が良いということです。なぜかと言うと、例えば何かトラブルがあったときに、対応してくれる営業窓口や支店があるのと、ないのでは受注の幅が大きく変わるからです。

自分の経験から言うと、展示会に出展してお客さんが興味を持ってくれて「すごく良い品質だね!一回買ってみようかな。」と言ってくれることはよくあります。その後にお客さんが「ところでおたくはヨーロッパに支社はあるの?」と訊かれて、「ちょっとまだないんですよね。」と言うと、途端に「残念だなぁ」というリアクションが返ってくるんですよね。こういった考えの根底には、やはりヨーロッパから見ると日本は遠いアジアの国の一つ、という認識があると思います。

お客さんからしたら、ただでさえ輸送費の影響で高い買い物になるのに、サポートがヨーロッパで受けられないとなると、さらに不安ですよね。つまり、ヨーロッパに支店を持つということは、お客さんの不安を減らすと言う意味で価値があるんです。

支店はヨーロッパにあればいい?

ヨーロッパにあればいいと思いますよ。というのは、ヨーロッパにおいて国境はさほど関係ないですから。逆に、ヨーロッパに支店がないとなると、ちょっと遠いなぁという印象を持たれちゃいますね。また、既にヨーロッパのどこかに支店があるなら、どんどんほかの国にも進出した方が良いと思いますよ。

フランス進出に英語は必要?

やはり英語は必要ですね。それは、欧州展示会は国際即が豊かだからです。出展した中小企業の展示会MIDESTの場合、ヨーロッパの国はもちろん多いですけれど、北アフリカのモロッコ、中東の国を始め、中国、台湾企業も出展しています。先ほど紹介した、我々より前にフランスに進出した由紀精密さんは、我々と同じくフランスに支社があります。その支社に勤める従業員の方の一人に日本人なんですけど、英語とフランス語をしっかり話す女性の方がいるので、その違いは大きいですね。

理想的には、事務所には英語を話せる現地の人が常駐してすぐに電話が取れる、という状況ですね。例えば、ドイツに進出するなら英語が話せるドイツ人が常駐しているようなイメージです。

フランス語ができなくてもビジネスはできる?

私のフランス語もまだまだなんですが、ヨーロッパはそういう人達でも対等にビジネスをやっていけるような受け入れ態勢があると感じます。それは、ヨーロッパの中でもフランスは移民の多い国で、移民の中には読み書きが十分にできないという方も多いんですよね。そうした理由もあって、ヨーロッパは言葉が流暢ではない人を受け入れる態勢が日本よりあると思います。

加えて、ビジネスにおいて重要なのは品物です。品物が評価対象なので、そこがしっかりしていれば問題ないと思います。

フランスの日本企業ついて

フランス企業と比較した時の日本企業の特徴は?

良い質問ですね。よく言われるのは、「質」と「繰り返し精度の高さ」ですね。後者の繰り返し精度の高さと言うのは、繰り返し同じ品質の製品を作り続け、安定供給ができる技術力のことです。このおかげで、お客様から重要部品を依頼されることもあります。こういった細部までこだわって作るという力に関しては、日本企業はすごいと思います。おそらく、より良いものを作ろうという意識や気質の違いがそうさせていると思います。

対して、こちらの企業は最低基準さえ満たしていればOKという考えが普通です。わかりやすく言うと製品の裏面に傷があったとしても、その部分が機能的に問題なければOKという感覚です。

フランスで成功している日本企業の特徴は?

製造業に限って言うと、技術が優れている企業です。よく言われる海外に進出する企業が直面する課題として、値段と技術のバランスがあります。海外で商品を売るには当然、輸送費や関税といったコストがかかりますからね。その中でも成功している企業は、値段が持つ以上の技術的な価値を提供できる企業だと思います。要は、替えがきかないような製品を持っているような企業は、我々の周りでも成功している印象がありますね。

加えて、高い技術力はお客さんとの信頼関係に直接的につながります。信頼関係の構築に必要な継続的な仕事の受注という面でも、技術力は必要ですよね。

日本製品に対するリスペクトはあるか?

結論から言うと、日本人が思っているほど「ジャパンクオリティ」みたいな感覚はこっちにはありませんね。全体的にリスペクトしている感じは受けます。ですが、やはり会社対会社が基本です。日本企業といってもピンからキリまでありますからね。

日本企業に対するイメージは?

一般的に言うと、遠いなぁという印象ですね。なので、ただでさえ距離が遠くて輸送費もかかるので、その中でお客さんと関係を構築するのは難しいと思います。ただ、お客さんが一度日本企業と取引して良い品物をもらっているとか、試しに一回注文を受けてそれがすごく良い経験になった、などの経験値があると日本企業に対する印象は大きく変わると思います。

フランスのネット事情について

フランスのWebサイトを見る時に特に注意してみる内容は?

日本と同じですけど、更新頻度ですね。要は、情報が新鮮かどうかです。あとこれはWebサイトの見方の話ですが、Webサイトを見る時はあくまでも参考程度に見ています。というのは、Webサイトというのは実際の内容よりも良く見せるようにできているからです。なので、情報をうのみにせず、大事なことは実際に会って確認することを心がけています。

日本企業とヨーロッパのWebサイトの違いは?

製造業に限って言うと、ヨーロッパのWebサイトの方が洗練されている感じがしますね。そうなる理由の一つは、業界以外の人にも分かりやすいデザインにする必要があるからだと思います。フランスは地元の行政が製造業を支援していて、製造業のWebサイトにも県のロゴやリンクが貼ってある場合が多いです。すなわち、地域のリンクを通して業界以外の人が見に来るケースも多いので、直観的に分かりやすいデザインにしているんだと思います。

フランス語Webサイトを作るにあたって、Google翻訳でも十分意味は通じるか?

ある程度は通じると思います。しかし、ネイティブの翻訳は必ず必要だと思います。例えば、私たち日本企業が中国企業からダイレクトメールをもらった時に、中国企業(外国企業)の日本語はすぐ分かりますよね。特に、日本企業は外向企業からの拙い日本語メールに対する免疫が少ないと思います。

先ほども言った通り、ヨーロッパには現地語に不慣れな外国人が比較的多く、受け入れ態勢もあります。なので、Webサイトの出来が外国語チックでも日本より受け入れてくれる可能性はあると思います。ただし、業界の専門用語、専門的な話をするにはGoogle翻訳だと不十分です。

これは参考の話ですが、私の前の会社のパートナー(フランス企業)の中で日本語Webサイトを作ろうという話がありました。その際に私は翻訳担当として参画しました。これがそのWebサイトです。当時はフランス語も不慣れでしたが、加工現場の経験のおかげで専門用語に関しては苦労しませんでした。なので、外国語HPを作る際の理想としては、専門用語を知る翻訳家に翻訳してもらうことだと思います。

フランスのネットで日本企業のサイトがヒットしたことはあるか?

ないですね。グローバルに事業展開している大手を除くと、日本企業のHPが引っかかったことはないです。

これは余談ですが、フランスを含めたヨーロッパで検索を行う方法は2種類あります。1つ目は、現地の言葉で検索する方法。2つ目は、英語で検索する方法です。後者の英語で検索する方法はグローバルな検索結果が表示されるので、もしかしたら英語で検索すると日本企業HPが引っかかる可能性はあるかもしれないです。ただ、私個人としてはフランス語検索することがほとんどなので、分からないですね。

日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?

専門用語の翻訳精度です。これは良くある話なんですが、エンジニアが現地の中小企業町工場に行って英語で話しても通じない、専門用語も英語だと通じないというケースです。

私事ですが、ブログで日仏の専門用語辞典を作っています。

先ほど言った経験をする方がいれば、自分のブログページを見て写真を見せながら説明すれば伝わると思います。英語とフランス語に対応していて、発音もついているので役に立ててもらえれば幸いです。

フランスの現状について

フランス生活で日本ギャップを感じる?

ギャップはすごいありますね。日本は色々なものが綺麗に整っていて、人もインフラもしっかり整っていると思います。一方で、日本にいると自分もしっかりしなければ、と堅苦しくなってしまう面もありますよね。なので、フランスの価値観になれてしまうと、もう日本には戻れない気がします。(笑)こういったギャップは、日本とフランスの違いというより、日本と外国の違いだと思います。

海外に住んでみて初めて日本という国の特殊性、優れている部分を感じましたね。加えて、現地の人の考え方の違い、文化の違いなんかも分かります。その辺は、海外旅行では感じられない貴重な経験だと思っています。

アジア系の人、企業に対する差別はある?

私自身あまり感じたことはないです。これは先ほども言った理由で、特にビジネス上では差別はないです。国ではなく会社対会社で取引しますからね。

一つ意識して欲しいことは、日本人はアジア人の一員であるという認識が必要だということです。フランスの人からしてみれば、中国も日本も遠いアジアの国の一部ですからね。その中でもう一歩関係性を進めて、日本の文化の違いなどについて話せるような仲になれば良いですよね。

フランスの治安は?

治安が悪いと感じたことはないですね。例外的に、特に都市部では文化も価値観も違う色々な人種の人がいるので、ある程度のトラブル、治安の悪さみたいなものはあります。テロもあります。

ただ、一つフランスに来て分かったことを伝えさせてください。

例えば、フランスでテロが起こったとなると「フランスってあぶねぇ」って日本から見ると思いますよね。ところが、実際は特定の地域に住む特定の人が犯した事件なので、フランスの国全体が危ないことはないんです。フランスで何か事件が起こると、日本から「大丈夫なの?」って心配されることもあるんですが、現場から場所が違えばほとんど関係なかったりするんですね。なので、今回のコロナウイルスの件でフランス国内のアジア系の飲食店が襲撃されたり、人種差別を受けた、みたいなニュースが日本ではクローズアップされますが、その外から見た報道の仕方と受け取り方に必ずギャップが存在するので、現地の人間はそこに違和感を感じてしまいます。

実際に事件を起こしているのは、全体数の内のほんのわずかな人達ですよね。報道や記事はメディアが売るために作るわけなので、必ず情報の受けて側が責任を持って取捨選択する必要があると思います。ブログでもそういう話を挙げているので、フランスに実際住んでみて感じた価値観の違い、文化の違いなんかを感じていただけたら嬉しく思います。

コロナウイルスの影響は?

日本の人からすると、フランスに住んでいるからコロナウイルスは関係ないと思われがちですが、実際そうではないんです。ヨーロッパは地続きなので、私の住んでいる地域だとイタリアやスイスの国境が近いんですね。なので、イタリアの北部でコロナウイルスが拡大しているニュースの方にむしろ注意しています。(2月23日インタビュー時)

最後に

最後に、少しだけ自分の話をさせてください。私がフランスに来た当初は、工場も何から何まで売って来ました。つまり、ずっこけたらそれでおしまいという訳です。誰からの保証もありませんでした。つまり、ビジネスをしに来ていると同時に、生き方を選択しに来たんです。中小企業って日本国内でもそうですが、仕事と家庭が表裏一体なんですよね。会社の売り上げが上がれば家族も円満で、会社の売り上げが落ちれば家庭内にも不和が生じる、みたいな。(笑)

そういうバックグラウンド中で、こっちに来てたくさん苦労をしてきました。なので、今回のインタビューを通して、メディアの情報だけからは分からない、現場の生の声と言うものを感じてもらえれば嬉しく思います。あと今後、この世界の製造業インタビュー企画を通して、世界中で働く日本の製造業事業者の座談会みたいなものが開けると面白いと思います。裏話とかも聞けそうですよね。(笑)

まとめ

いかがでしょうか。冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

  • 「フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?」

→ ヨーロッパに支社を設けた方が良い

  • 「フランス企業と日本企業を比較した時の特徴は?」

→ 日本の中小企業は「質」と「繰り返し安定供給する力」が高い

  • 「日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?」

→ 専門用語の翻訳精度を保つこと

  • 「アジア系の人、企業に対して差別はある?」

→ 差別はなく、ビジネス上問題になることもない

のようになります。現代ではメディアやインタ―ネットを通して、誰もが簡単にオンライン上のデータにアクセスできます。しかし今回のインタビューを通して、石塚さんのような現場で働く生の方の声ほど説得力のある情報はないと改めて実感しました。今回の内容がフランスへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

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