IoT導入事例ファイル6:品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例

こんにちは、AI/IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、毎回ものづくり企業におけるさまざまなAI/IoTの活用事例をまとめています。今回は、品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例をご紹介します。

【執筆者紹介】宮田 文机
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宮田 文机
盛岡在住ライター
執筆テーマ:IT・AI・ものづくり・HR・採用ノウハウ・ビジネス戦略
【経歴】
関西の大学を卒業後、東北のWeb・マーケティング企業にて2年間勤務。HR・IT系の記事執筆・編集経験を積み、その知見を生かしてフリーライター業務を行っています。ユーザー目線でベストな言葉を取捨選択し記事に反映することがモットーです。
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紙と人に頼った手法がQA・QCのボトルネックになっている

企業が信頼性を確保し顧客満足を高めるため、品質保証(QA:Quality Assurance)や品質管理(QC:Quality Control)は非常に重要です。しかし、従来の紙と人による品質保証・管理手法は限界を迎えつつあります。長年TQM(Total Quality Management)活動に取り組み、世界中で高い評価を得てきた日本製品の競争力に陰りがみられる原因のひとつは品質保証・品質管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れではないでしょうか?

ここからは、故障の予知やリアルタイムのデータ取得で品質保証・品質管理を行う5社の先進事例をご紹介します。

事例1:故障の「予知」で理想的な保守を実現した株式会社前川製作所

産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサー、冷凍・冷蔵倉庫冷却設備などを製造・販売・施工する株式会社前川製作所。

万が一機械が故障、停止した場合にはユーザーに対して大きな損害を与えてしまうため、故障を予防し品質保証を徹底することが最重要課題となっていました。従来は早期の消耗品交換等によって対応していた前川製作所ですが、交換にあたって人的コストや消耗品コストが発生するため頭を悩ませていました。

そこで導入されたのが冷凍機に設置したセンサーから稼働データを収集し、故障の予兆や推定される異常個所をメール配信してくれるシステムです。機械学習により装置ごとの差異や周辺環境も考慮してくれる同システム。

導入後は予知に従いベストなタイミングで保守交換を行うことが可能になった上、異常個所が高い精度で特定されるため品質保証の制度も高まったといいます。

事例2:3Dデータの測定で鋳造の精密さ・自由度を高めた株式会社木村鋳造所

静岡県で自動車用プレス金型用鋳物や工作機械・産業機械用鋳物の製造・販売を行う株式会社木村鋳造所。発泡スチロール模型を製造することで早く安価に少量多品種生産を実現できるフルモールド鋳造法を強みとしています。

そこで品質管理に導入されたのが非接触型の自動測定・検査機「ATOS」。完成品の3Dデータをレーザーで測定することで模型とのズレを見抜けます。

模型の3Dデータを取得することにはほかの利点もあり、例えば耐圧・耐熱などのシミュレーションを行うことも可能に。その結果、手間やコストを抑えつつより自由度の高いものづくりに取り組めるようになりました。

蓄積された3Dデータはいつでも呼び出すことができるため、類似品を製造する際に参考とすることができるのも大きな利点といえるでしょう。

事例3:リアルタイムに生コンの品質を把握できるシステムを開発した株式会社東伸コーポレーション

神奈川県横浜市で生コンクリートを製造・販売する株式会社東伸コーポレーション。

製造直後から化学変化が始まる生コンクリートの品質保持は熟練者の経験と勘が必要であり、特にミキサー車に積み込んだ製品の品質保持の負担の大きさが問題とされていました。

その状況をがらりと変えたのが生コンクリートの性状変化データをリアルタイムで確認できる管理システム「Smart Agitator®」です。海外ベンチャーと東伸コーポレーションを含む数社で設立されたGNNMJ社が開発した同システムは走行中のミキサー車からでも正確なデータを取得できるよう設計されています。

Smart Agitator®の導入後は誰でも品質を把握し管理できるようになっただけでなく、生コンの品質が劣化する状況についてデータをもとに分析できる状況も整いました。

事例4:可食性プリンタを遠隔・リアルタイムで保守点検する株式会社ニューマインド

平成24年に設立された比較的若い企業である株式会社ニューマインド。

特殊プリンタ事業に特化した同社ではケーキやせんべいなどの食品にフルカラー印刷が行える可食性プリンタ機器を取り扱っています。同商品は通常顧客である食品メーカーの製造ラインに組み込まれて稼働するため、故障の原因特定が困難という問題を抱えていました。

衛生面など手厚いケアが必要な可食性プリンタの保守を遠隔・リアルタイムで行えるようニューマインドが導入したのが顧客企業のWi-Fiや有線ネットワークを利用してプリンタの稼働状況や温度・湿度といった環境データを取得するシステムです。

プリンタの保守点検にIoTによるデータ取得を活用するシステムは、キヤノンやリコーといった大手企業でも用いられています。
遠隔・リアルタイムで品質保証が行える点、データを製品の開発や顧客サービスの充実に生かせる点に多くの企業が注目しているようです。

事例5:生産管理システムをカスタマイズしTQMを進めた株式会社笠原成形所

最後に紹介するのは新潟県南魚沼市でプラスチック成形業に従事する株式会社笠原成形所です。TQMを重視する同社では生産に関わるデータを各従業員がスムーズに呼び出し活用できる仕組みの構築を目指していました。

そこで導入されたのが生産管理システム「MICS」です。開発企業とカスタマイズを重ね、複数のメーカーの成形機の稼働状況を一覧で把握する、成形機から金型のショット信号を取得するなど自社に適した機能を盛り込んだ同システム。従業員に一人一台支給したタブレット端末から生産データや機械使用時の注意点を把握できるようになったことで紙で情報を管理していた以前に比べ、大きく全社的な品質管理が前に進んだそうです。

DXに対する意識の高さに加え、元からある機能や使用感で妥協せず工夫を重ねたことで理想の環境を実現できた例といえるでしょう。

まとめ

品質保証(QA)・品質管理(QC)にIoTを活用する5社の事例を見てきました。日本企業の強みである品質を世界基準で維持し続けるには、AI/IoTの活用が不可欠といっても過言ではありません。現在紙と人だけで品質管理に取り組んでいるならば、問題や不便がないか、それはDXにより解決できないかと検討してみることをおすすめします。

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宮田 文机
盛岡在住ライター
執筆テーマ:IT・AI・ものづくり・HR・採用ノウハウ・ビジネス戦略
【経歴】
関西の大学を卒業後、東北のWeb・マーケティング企業にて2年間勤務。HR・IT系の記事執筆・編集経験を積み、その知見を生かしてフリーライター業務を行っています。ユーザー目線でベストな言葉を取捨選択し記事に反映することがモットーです。
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