今すぐやれる製造業の小さなデジタル化

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は製造業のデジタル化についてです。

【執筆者紹介】馬場 吉成
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馬場 吉成
工業製造業系ライター
執筆テーマ:製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げます。
【経歴】
機械設計技術者と特許技術者を合計で16年経験。東京都在住。ライター歴約10年。製造業向け記事、テクノロジー全般を執筆。工業、製造業、最新のテクノロジーについて、元エンジニアで製造の現場を直接知るライターとして、正しい知識と情報で、専門の方から一般の人まで分かりやすく執筆することが得意。
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製造業のデジタル化への動き

人手不足、働き方改革といった問題の解決策として、各業界でデジタル技術の活用が注目されています。もちろん製造業においても、デジタル改革というのは近年大きな話題となっています。

  • IoTで見えていなかったものを見える化する。
  • AIを使ってより最適な加工条件を導き出したり、熟練技術者の技術を学習させたりする。
  • 3D CADと3Dプリンターで試作や解析まで容易におこなえるようになり、製品の質をあげていく。
  • PLMを導入して、各個人が持つ技術情報が部門を超えて一元管理される。
  • 協働ロボットを導入して作業効率のアップする。

など。人手不足、働き方改革にとどまらず、技術継承やコストダウン、安全対策など、製造業ではデジタル化により解決できる問題が数多くあります。

製造業のデジタル化に関しては、国も様々な取り組みを行っています。経済産業省が毎年発行している「ものづくり白書」では、第4次産業革命がここ数年の大きなテーマです。2019年度版では、我が国の製造業が世界に対して競争力を強化する4つの方策を上げています。

  1. データの活用による新たなビジネスモデルの構築
  2. 強みを活かした世界市場の開拓
  3. 製造×AI・IoTスキル人材の育成と活躍できる現場作り
  4. 技能のデジタル化と徹底的な省力化

2011年にドイツから始まった、製造業のデジタル技術を中心とした革新、「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の波は、確実に日本にも影響を与えています。革新が進みつつあるものの、それを進めていく人材不足も問題となっていることが白書からわかります。

2019年版ものづくり白書

もう少し具体的な例として、国と民間が協力して行っているこんな研究もあります。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と産業技術総合研究所、大阪大学、中部大学が共同して、製造現場で自律的な作業を実現するロボットのAI技術の開発です。

製造現場でのロボットの自律的な作業を実現するAI技術を開発

製造、組み立てラインでのロボットの使用は以前から行われていました。単一作業を行うには、人間より高速かつ正確。長時間の作業でも問題ない点は、今まで製造業で大いに役に立ってきました。しかし、多品種少量生産となると、変更の度に動作を新たに教えるか、ロボットそのものを変えないといけません。このロボットAI技術によって多品種少量生産でもロボットが使えるようになります。こういう形でも製造業のデジタル化は進みつつあるのです。

小さな町工場でもできるデジタル化

製造業のデジタル化は、今後もさらに加速して進んでいくのは確実と思われます。避けて通れない事案であり、やらなければ取り残されて、やがて消えていくことになるかもしれません。

とはいえ、総務省・経済産業省の経済センサス―活動調査によれば、日本には約22万もの工場があり、その99%以上が従業員数300人以下の中小企業。IoT、AIだなどと言われても、費用もなければ、それをやれる人もいない。納期の管理なんて、今どきのAIなんかより遥かに優秀な社長の頭で、柔軟にサバをよみつつ管理ができるよ。機械の不調なんて音を聞いていればわかるさ。情報共有なんてパソコンでしなくても、話していれば勝手に共有できている。別にデジタル化なんて必要ない。なんて思うところも多いのではないでしょうか。確かに、人数が10人もいないような小さな工場で、これからはデジタル化だ!と言われても、何のことだかわからないというのも当然あると思います。

IoTでスマートファクトリーとか、設計情報をシステムで一元管理とか、協働ロボット入れて省力化とか。何もそんな大がかりなところからデジタル化をしなくても、現状の製造業ではかなり効果があると思われる、ほんのわずかなデジタル化があります。その1つが、受発注でFAXをやめることです。

私が以前、ある小さな工場の社長から聞いた話です。その工場は、何台もの機械を社長一人で操作して部品をつくる加工工場。材料の調達も、加工も、発送も全て社長1人でおこなっています。以前はFAXを使って図面、発注書などを受け、見積もり書の送付も行っていました。パソコンで作った書類をプリンターで打ち出し、それをまた送る。送られてきた書類が山積みになっていく。事務作業が増えるばかりで、一番重要な加工作業にあてられる時間を圧迫していました。

では、事務作業を減らすにはどうしたらいいか。その結果おこなったのがFAXの廃止です。

注文などは全てメールで行うようにしました。その結果、事務作業は大幅に減り、管理も楽になる。作業効率が大幅に上がったそうです。最初は、それでは注文ができないと苦情を言う業者もあったそうですが、廃止は特に問題はありませんでした。今ではインターネット経由の注文も増えているそうです。

今もFAXでやり取りしている製造業の方は結構いるのではないでしょうか?電話しか連絡手段のない時代には大変便利なものでした。しかし、今はもっと便利なメールがあります。導入には、それほど手間も時間もお金もかかりません。そのぐらいのところからまず、デジタル化してはどうでしょうか。今ではメールも煩わしいということで、ビジネス向けのチャットツールも活躍するようになりました。それも比較的簡単に導入ができます。日本の製造業のデジタル化は、全体で見るとまだかなり遅れているといえます。変えられるところから小さくデジタル化していく。小さなところからコツコツと。日本の製造業が得意とするところです。

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馬場 吉成
工業製造業系ライター
執筆テーマ:製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げます。
【経歴】
機械設計技術者と特許技術者を合計で16年経験。東京都在住。ライター歴約10年。製造業向け記事、テクノロジー全般を執筆。工業、製造業、最新のテクノロジーについて、元エンジニアで製造の現場を直接知るライターとして、正しい知識と情報で、専門の方から一般の人まで分かりやすく執筆することが得意。
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