中小製造業の事業承継の新しいカタチ

テクノポートの徳山です。数年前から新聞やTVなどのメディアが日本の事業承継問題について取り上げる機会が増えてきました。今後、後継者不足により廃業に追い込まれる中小企業がますます増えると言われています。そんな中、この問題の解決につながるかもしれない新しいカタチの事業承継も増えているようです。今回は「中小製造業の事業承継の新しいカタチ」について考えてみました。

事業承継問題を抱える日本製造業

後継者不在により廃業に追い込まれる中小製造業

中小企業白書の「中小企業の経営者年齢の分布」によると、2015年の時点で経営者の年齢で最も多いのが66歳となっており、これからも高齢化が進んでいくことが書かれています。後継者が見つからず、そのまま廃業に追い込まれる件数も年々上昇している状況です。

また、事業承継を希望している企業のうち、既に候補者が決まっている企業は44.0%と言われており(中小企業庁調べ)、多くの中小企業で後継者が不足していることが分かっています。このままでは更に廃業の件数が増える見込みで、日本経済にとって大きな懸念材料となっています。

なぜ日本の中小製造業は後継者不足なのか?

日本の後継者不足には少子化など様々な要因があると考えられます。跡取りとなるはずの子供が跡を継がず別の道を歩むというケースもありますが、現経営者である親が子供に苦労をさせたくない、という想いから事業承継に消極的になり、敢えて廃業を選択する、というケースも少なくないようです。

好景気から不景気を経験されている現経営者にとって(下手したら不景気しか経験していない)、自分がしてきた苦労を同族に生まれてきたからという理由だけで、我が子に背負わせることに躊躇してしまう気持ちも分からないでもありません。

また、不景気で会社が儲かっていないから、製造業自体の人気が若者に低いから、ということも積極的な事業承継につながらない理由として挙げられます。どんなに苦労しても会社が儲かっていたり、人気のある職業であれば後継者も積極的に後継の道を選ぶでしょうから。

そんな中、従来の承継方法(血縁関係のある同族内で後継者を探す)にとらわれない、事業承継問題を解決するための様々な解決方法が見出されています。

様々な事業承継のカタチ

中小製造業のブランドグループをつくる由紀ホールディングス

航空宇宙関連の精密部品加工を中心に事業展開している株式会社由紀精密の持株会社となる由紀ホールディングス株式会社は、後継難に陥っている技術力の高い中小製造業を買収し、ホールディングスの傘下に収める形式で事業承継問題解決の一翼を担うことを目指しています。

最近買収した企業は、3DCADを活用した複雑な形状の金型の試作や製造が得意な「昭和金型製作所」や、航空宇宙関連部品の加工を行っている「仙北谷」などがあります。

由紀ホールディングスは「ルイヴィトンなどのブランドを保有するLVMHグループのような中小製造業のブランドグループを作りたい」と考えており、新しい事業承継の在り方として注目されています。

個人的には、中小企業による中小企業のM&Aが増えることは、後継者問題のみならず人材不足解消の一手にもなるので良いことだと考えています。ものづくり補助金で設備を増やす企業は多いですが、M&Aを行う中小企業はほとんどいません。国内での生産量が増える見込みが無い中で、設備を増やすよりも今国内に存在する資産を最適化する方がより意義深いのではないでしょうか。

脱サラし3,000万円でアルミ加工会社を個人で買収

元メーカーのサラリーマンだった溝口勇樹氏(当時25歳)は、脱サラし京都でアルミ加工を行う有限会社美山精機を個人で買収した、というニュースが先日世間を騒がせました。なんでも溝口氏は、株式会社日本創生投資の三戸社長が出版した書籍「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」に影響されて行動を移したとか。

美山精機は地元金融機関が、この会社を潰したらもったいないと考えていた優良企業だそうで、溝口氏が会社を引き継ぐ際に1800万円の融資をし、その資金を元手に新たなスタートを切ったとのことです。

同様の動きが全国で広まっており、山口フィナンシャルグループでは、2019年1月に後継者不足に悩む中小企業と、経営者を目指す若者を結びつける新しい仕組みの事業承継ファンド新設したそうです。

ちなみに、現在弊社で進行中の自作ホームページPJに参画中の杉田社長(株式会社関東精密)も個人で会社を買収されたそうです。会社を引き継いだ後は、メタルDIYというワーキングスペース事業を立ち上げるなど、積極的な事業展開をされています。

後継者が積極的に新事業を生み出すベンチャー型事業承継

ベンチャー型事業承継とは、若手後継者が、家業が持つ有形無形の経営資源を最大限に活用し、新たなビジネスを創出する中で事業を承継していくベンチャー型事業承継が広まっています(引用元:株式会社千年治商店HP)。

ベンチャー型事業承継は、上述した2つの例とは違い、同族内での承継が基本ではありますが、古い業態を後継者が新しい業態に変革することで、後継者不足の理由の一つだった「業界的に人気がない」という問題に対し「自力で人気の高い業態へ変革することもできるんだ」という考え方を示すことで、後継者の意識を変える良い取り組みであると言えます。

実際にベンチャー型事業承継を実施した有名な企業は下記の企業が挙げられます。

西村プレシジョン(老眼鏡「ペーパーグラス」の開発)

福井県鯖江市にて金属加工業を行っていた株式会社西村金属の後継者西村氏が、地場産業であるメガネ製造技術をもとに、紙のように軽くオシャレな老眼鏡「ペーパーグラス」を開発し、製造業から眼鏡メーカーへの転身を果たしました。

愛知ドビー(ホーロー鍋「バーミキュラ」の開発)

愛知県名古屋市で創業された老舗鋳造メーカーである愛知ドビー株式会社は、後継者である土方兄弟が力を合わせ「町工場から世界最高の製品を作りたい」という思いからメイド・イン・ジャパンの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を開発しました。今では、炊飯器を製造するなど家電事業にも進出しています。

中小製造業の貴重な技術を絶やさないことが重要

様々な事業承継のカタチを紹介しましたが、事業承継がうまくいかないことにより「中小製造業の貴重な技術が絶えてしまう」という大きな問題点をクリアする、という視点が重要ではないかと私は考えています。

製造業の経営者は日本の技術力を保持していくためにも、後継者が同族の人間であるかどうかに限らず、積極的に企業(技術)を存続させる努力をするべきではないでしょうか。

外部の人間が経営権を引き継ぐことに対し、ネガティブに捉える人もいるかも知れませんが、同族企業内では生まれなかったイノベーションが生まれる可能性があるというメリットがあると思います。

逆に気をつけたい点としては、株式の承継などをしっかり行い、新後継者が意思決定を阻害されるような経営権の承継を行ってはならない、という点です。お家騒動に新後継者を巻き込むようなことがあっては絶対になりません。

また、その企業が持つ技術の価値を理解できる人が経営権を引き継がないと、貴重な技術が経営権の承継とともに絶えてしますおそれがあるので人選は慎重に行うべきです。

事業承継問題にお困りの方がいらっしゃったら、私が所属している日本ファミリービジネスアドバイザー協会でお力になれるかもしれません。お気軽にお問合せいただければ幸いです。

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