情緒的価値を考慮しWebサイトのブランド価値を向上させる

【執筆者紹介】徳山 正康
この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
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テクノポートの徳山です。自社ブランドを構成する上で重要な要素となる「情緒的価値」という言葉をご存知でしょうか。論理的ではなく感覚的に感じる価値のことを情緒的価値といいます。BtoC企業と違い、BtoB企業のWebサイトを構築する際に「機能的価値」は重要視されても「情緒的価値」について考慮されないケースが多々あるように感じます。BtoB企業のWebサイトにとって「情緒的価値」はどれほど必要なものなのでしょうか?そこで今回は「情緒的価値」を考慮することで得られるメリットや、実際の活用事例についてご紹介いたします。

情緒的価値を考慮するメリット

まずは情緒的価値を考慮することで得られるメリットについて考えていきます。

ブランドを構成する一つである「情緒的価値」

冒頭に申し上げたとおり、ブランドを構成する要素は「機能的価値」「情緒的価値」の2つがあります。機能的価値とは、「生産能力〇〇ケ/月」「精度±0.01mm保証」「ご注文より納期10日以内」といったように数値で説明でき、論理的に伝えられる価値のことをいいます。

それに対し、情緒的価値とは「かっこいい仕事の取り組み方をしている」とか「親身で人情味のある会社」など、その会社や製品から感じる「共感性」「安心感」「期待値」など、定量的に表現しにくい価値のことをいいます。BtoB企業の場合、意思決定を論理的思考をもとに行われることが多いため、Webサイトを作る際に情緒的価値を軽視する傾向がありました。確かに担当者がWebサイトのデザインが自分の好みだったから、という理由で発注先を選定することはなかなか無いかも知れません。

しかし、最近では情緒的価値を重視したブランディングを行っているBtoB企業が増えてきています。その潮流に対し、私は下記のような理由があるのではないかと考えています。

  • 担当者が論理的な思考だけで取引する会社を選定している訳ではない
  • ほとんどのWebサイトが機能的価値にフォーカスしているため、実は情緒的価値の方が差別化しやすい

実際に社長の理念という情緒的な価値に共感したからという理由で発注先を選定した人が知り合いにいるので、会社によっては論理的ではない意思決定を行っている会社も少なくないのかも知れません。

情緒的価値を考慮するとどのような効果が期待できるか

ブランドを構成する上で機能的価値と情緒的価値は両方とも重要なものですが、Webサイトにおける新規顧客開拓の話でいうと、私はそれぞれ役割が違うのではないかと考えています。

上図のように、論理的に伝わる価値(=機能的価値)はもともと想定しているターゲットの開拓には向いており、感覚的に伝わる価値(情緒的価値)は考えてもみなかった潜在顧客の開拓に向いています。論理思考よりもデザイン思考の方がイノベーションを生み出しやすいとよく言われますが、それと同様に想定外の顧客を獲得するには顧客側で自社技術を活用する方法を閃いてもらわないといけません。この閃きを起こすには機能的価値よりも情緒的価値の方が適していると考えられるからです。多くの企業が課題として抱えている技術・製品の用途開発を実現するためには、情緒的価値にフォーカスしたブランドを構築する必要があるのではないでしょうか。

情緒的価値について考える際の注意点

クリエイティブな思考になるための環境をつくる

情緒的思考を考慮したブランドを考えるために社内で意見交換を行う場合ですが、普段論理的な仕事ばかりしている会社だとなかなか情緒的価値を考えるためのクリエイティブな思考に切り替わらない場合があります。そんな時は、会社を飛び出しいつもとは違う場所でアイディア出しをする、社外の人にも加わってもらい雰囲気を変える、など工夫することが必要です。

理想と現実のギャップに注意

Webサイト上で打ち出している情緒的価値と実情とに乖離があると、コミュニケーションがはじまった後に悪いギャップをユーザへ与えてしまうことになるので注意が必要です。機能的価値と違い、情緒的価値はどのような表現でも出来てしまうので、理想と現実とのギャップがない表現を心がけましょう。問合せを獲得できたとしても受注できなければ意味がありませんので。

情緒的価値を自社のWebサイトへ取り入れる具体的な方法

次に、情緒的価値を活用したWebサイトにより成果を挙げた事例をいくつかご紹介します。

感情面にも訴求するキャッチコピーの作成

Webサイトに掲載するキャッチコピーなどを考える際に、機能的価値だけでなく情緒的価値にフォーカスすることでユーザの感情面に訴えかけられるコピーになります。これを考える時は、機能的価値以外で顧客から褒められたエピソードを挙げてみると良いと思います。

製品から伝わる情緒的な価値であれば「梱包の仕方が丁寧で人柄の良さが伝わってくると言われたことがある」とか、「いつも納期より少し早めに仕上げてくれるので安心感がある」といったエピソードはないでしょうか。

人から伝わる情緒的な価値であれば「いつも笑顔で丁寧な対応だから付き合っていて気持ちがいい」とか、「社員全員から職人魂を感じプロ意識高く尊敬する」などと言われたことはありませんか。そういったエピソードをもとにコピーを考えていくとまとめやすいのでオススメです。

事例:イースタン電子工業さま
マイクロ・ビュー社(米国)の三次元測定機を代理店販売している同社ですが、日本での知名度の低さを弱点としていました。そこで機能面だけではなく「世界で多く使われている安心感」という情緒的価値を押し出したキャッチコピーに変更すると共に、今まで見たことのないものへの期待感を演出するためのサイトデザインへ変更し、多くの顧客獲得へとつなげています。

製品の見せ方を工夫する

少し工夫して製品をいつもと違う見せ方にするだけで、ユーザの感情面に訴えかけられるようになると共に、既成概念を取り払うことにつながり、想定外の潜在顧客のニーズを引き出すことができるようになります。こちらは言葉で説明するよりも事例をご紹介した方が分かりやすいと思いますので、こちらをご覧ください。

事例:愛宕精工さま
日常とは違う場所で自社の加工品を撮影することで、ユーザの感情面へ訴求するといった取組みを行いました。普段は航空宇宙関連の部品加工を行っている同社ですが、会社を飛び出しオシャレなカフェを貸し切り、そこに加工品を並べて写真撮影を行いました。その結果、既存の分野に限らない様々な分野の顧客からの問合せ獲得につなげることができました。

事例:旭スプリングさま
メインビジュアルにカラフルなバネの画像を掲載していますが、普段はこのようなバネの製造は行っていません。バネにカラーバリエーションをつけた写真を掲載することでユーザの感情面を刺激しよう、というアイディアを実行したのです。「下町のバネ屋さん」というコピーもユーザの安心感に繋がり、多くの問合せ獲得に成功しています。

メインビジュアルで情緒的価値を訴求する

情緒的価値を伝えるための常套手段であるデザインの力を活用する方法です。言葉を使わずにユーザの感情面へ訴求するにはデザインの力を活用しない訳にはいきません。こちらも具体的な事例がありますのでご覧ください。

事例:東将精工さま
「社員の笑顔」と「すぐに会える」というキャッチコピーを全面に押し出し、親しみやすさを伝えるメインビジュアルを制作しました。顔を合わせて仕事を進めたいという理由で近場でサプライヤーを探しているユーザの心を捉え、多くの問合せ獲得へ繋げることができました。

BtoB企業こそ情緒的価値に考慮したWebサイトを

いかがでしょうか。自社でも情緒的価値について少し考え直してみようと思うきっかけになれば嬉しいです。製造業でもほとんどの企業が自社Webサイトを所有していますが、多くの企業が機能的価値についてはWebサイト上で効果的に表現できるようになってきていると思います。しかし、情緒的価値についてはまだまだ考慮している企業が少ないように感じます。競合サイトと効率的に差別化を図るために、今一度自社の情緒的価値について見直してみてはいかがでしょうか。

また、Webマーケティングに関する手法をまとめた記事もございますので、こちらもご参照ください。

この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

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