事業価値を創造する技術戦略

ものづくりドットコムの熊坂です。

先月の某イベントで元サムスン専務である吉川良三氏の講演「日本の産業に未来はあるのか」を聴講しました。興味深い内容がてんこ盛りで、充実した時間でしたが、最後のまとめは「適者生存、柔軟な考え方で潮目の変化に対応」でした。当たり前と言えばそれまでなのですが、この当たり前のことがなかなかできないものです。常にアンテナを高く掲げ、流れの変化に遅れないように(しかし早とちりせず)、適切に対処していきたいものです。

さて、ものづくり革新のキーワードを毎回ひとつずつ紹介しており、今回は「技術戦略」についてお話します。

中小製造業における技術戦略とは

以前企業理念のお話をした時に、企業の方針展開構造を図1で示しました。この中で技術戦略は下から2段目に位置する機能戦略のひとつと言えます。他の機能としては、生産、製品企画、人材育成、購買、知財管理、経理などがありますが、どんな技術を選び、磨くかという技術戦略は、どこでどう作るかという生産戦略と並んで、ものづくり企業における中核事項であることに疑う余地がありません。

図1.方針展開のピラミッド

戦略策定の方向として、競合との関係性を中心に考える競争戦略と、社内の人材やノウハウ、想い入れを中心に考える資源戦略の二つの視点があります。もちろん両方とも重要であり、配慮する必要はありますが、どちらに比重を置くかは、図1において戦略の上位にある「ビジョン」から判断することとなります。

技術戦略策定の手順

図2.戦略策定の手順

つい最近JETI(Japan Engineering & Technology Intelligence)誌11月号に投稿した記事で、戦略策定の手順を図2で示しました。中小規模の企業でここまでしっかり作業しきることは難しいかもしれませんが、これに準じた手順を踏むことで、手戻りのない戦略が獲得できます。

技術戦略策定にあたっては、この中で外部環境の分析特にPEST分析の「T=Technology」である技術動向の調査が重要とはいえ、先端技術ほど不確定要素が多く、また公開されないために、完璧な調査は極めて困難です。さらに他社、競合を分析しすぎると、身動きが取れなくなる危険性もあります。自分たちがやりたいこと、ありたい姿に向かって戦略を決めていく姿勢も時には必要でしょう。

中小企業の技術戦略成功事例

私が知っている高収益中小製造業の技術戦略事例をいくつか紹介します。これらは私が山梨学院大学で担当している「技術経営論」の講義中で、ケーススタディとして取り上げている企業です。

(1)エーワン精密

山梨県韮崎市に工場のある旋盤加工機用コレットチャックを主力製品とする製造業です。工場全体を「短納期」に最適化することで、全国の加工業から全幅の信頼を得て、直販体制を確立し、経常利益率30%以上という驚異的な業績を長期的に継続しています。

(2)東海ばね

大量生産に決別し、1個から20個程度の特殊ばねに特化して受注し、技術力と体制を整えた結果、全受注を自社の決定価格で成約し、高収益を継続しています。職人の働く環境にも細かく配慮しているため、従業員数100人以下でありながら、有名大学卒を含む多くの入社希望者が集まります。

(3)未来工業

スイッチボックスを主力製品とする岐阜県本社の製造業で、最終ユーザーである建設職人の隠れたニーズを次々に実現して、シェア80%を確保。短時間勤務、高報酬などで社員のモチベーションが高く、自律的な改善活動によって多品種にもかかわらず低価格、短納期で販売しています。

(4)池内タオル

大手発注元の倒産により連鎖倒産したことを機に、自社ブランド生産へ全面的に切り替え、オーガニックコットン+風力発電エネルギー+高度な排水処理設備という環境に配慮した製品を訴求し、高価格ながら環境意識の高い消費者の絶大な支持を受けています。

各社各様、いずれも独自のコアコンピタンスを持ち、それを磨いていることが分かります。参考にはなるものの、今から彼らの戦略を真似して成功するとは思えません。自分たちで図2の手順を踏んで真摯に考え抜くことで、簡単ではありませんが、なにかしらの戦略が見えてくるものです。

また、当初考えた戦略がズバリ当たって大成功ということは少なく、やってみることで新たな事実が判明し、それに基づいて戦略を修正しながら、少しずつ成果に近づいていくことがほとんどです。大企業と異なり、柔軟かつスピーディーな戦略設定、修正ができることが、小規模企業の持ち味でもあります。まずは一歩目を踏み出しましょう。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、川崎響子さんが技術戦略分野の専門家です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

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