石油に頼らない!タンパク質素材の時代が近づいている

ものづくり経革広場の井上です。今回は、個人的にとても気になっている「クモの糸」について紹介します。鋼鉄よりも強靭でナイロン以上の柔軟さを兼ね備えている夢の繊維「クモの糸」は世界中が注目しています。山形のベンチャー企業が世界で初めてクモ糸の量産化に成功したという発表があったのが5年前ですが、実用化に向けた取り組みが着々と進んでいるようです。「クモの糸」がどのようなもので、また、どのような活躍が期待されているか調べました。

何がすごい「クモの糸」

「クモの糸」を一言で表すなら、世界で最もタフな繊維です。軽さはF1などに利用されるカーボンファイバーの4割軽く、強度は鋼鉄の4倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性は300度を超えます。例えば直径1cmのクモの巣を張れば、飛んでいるジャンボジェットを捕獲できるぐらいの強度だそうです。あらゆる産業に応用可能な素材であり、革新性を挙げればキリがありません。しかし、「クモの糸」を実用化するには課題がありました。

量産・実用化への長年の課題

クモの糸の過程

クモ糸の人工合成は、遺伝子情報の解読が始まった1990年頃から、世界中で研究が進められたそうです。米軍が軍事用に実用化の研究に取り組んだのを始めに、ドイツ、イスラエル、スウェーデン、ロシア、中国、韓国などでも研究が進められたそうですが、2013年頃まで量産化も実用化もできていませんでした。それには2つの問題がありました。

生産コストの問題

クモは縄張り争いや共食いが激しく、蚕のように人工飼育できません。世界の研究者は、遺伝子工学を駆使し、宿主となる生物にクモ糸のタンパク質を作る遺伝子を組み込み、大量に生産させる方法を模索しました。これまで色々な生物でテストが行われたそうですが、いずれの方法も生産コストが高すぎ、生産効率も悪く実用化できていませんでした。 色々な生物の中で微生物を使うことが最も効率的だと考えられていましたが、ここにも大きな問題がありました。クモ糸のように、巨大で複雑な分子構造をもつタンパク質を、微生物に効率よく作らせることは非常に困難だったのです。微量のタンパク質を確保するにも、何億という単位のコストがかかると言われていました。

安全性の問題

繊維を作るためには、微生物から分離・精製したタンパク質を一度溶かし、紡糸する必要があります。しかし、クモの糸のタンパク質は、非常に溶けにくいという問題がありました。唯一溶かせて加工できると言われていたのが、フッ素系の溶媒のHFIPや、HFAcでしたが、人体や自然環境に対して非常に強い毒性をもち、しかもコストが高いため量産には向いていませんでした。

イノベーションにより量産技術を確立

微生物による量産技術の確立

クモの糸でできたドレス
http://www.japanfashion.or.jp/creation/wp-content/uploads/sites/7/2016/04/Spiber.pdf

そのような課題を乗り越えて世界で初めて人工クモ糸繊維の量産基盤技術を確立したのが日本のベンチャー企業 Spiber株式会社(山形県鶴岡市)です。 単純な微生物にもクモ糸のたんぱく質が作れるよう、合成した遺伝子をバクテリアに組み込んで培養し、たんぱく質を生成しています。また、課題であった安全性に関してもクリアした紡績技術を確立し、合成クモ糸の量産を可能にしました。この技術は5年ほど前には確立され、今では他国でも技術が確立され、クモの糸の実用化競争がスタートしています。調べた限りでは下記の2社がありました。

①カリフォルニアのベンチャー企業ボルト・スレッズ
2015年頃 発表し最近までで2億ドルほどの資金調達に成功しています。
https://www.wwdjapan.com/528756

②米国のクレイグ・バイオクラフト
2016年にクモ糸繊維の生産をベトナムで開始したと発表しています。
https://www.digima-news.com/20160318_4216

さらに超える技術

その他にも去年、理化学研究所で、「化学的手法でクモの糸を創る」という発表がありました。クモ糸タンパク質の構造を模倣したポリペプチドの合成する手法で、微生物法よりもより効率的に量産が可能と発表しています。
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170119_1/

今後の可能性

投入されている金額の大きさからも、クモの糸は様々な利用用途が期待される、未来の素材ということがわかります。 個人的に2つの可能性に注目しています。

①「現代の石油由来の素材時代から、タンパク質素材の時代に変化する可能性」

微生物に異物のタンパク質を作らせる技術は、クモの糸に限らず転用できる可能性があるのだと思います。今は、クモの糸という代替できない超高性能素材のため優先して生産されていますが、微生物による量産技術がさらに発展すればコスト低減により従来の材料の代替品としての利用が期待できると思います。例えば、シロアリの顎はタンパク質と金属の複合素材のようなものでできていて、チタン合金と同じくらいの硬度があるそうです。天然資源に頼っている以上、限りあるものであり、また、供給元との力関係により値段が大きく変動します。もし、将来、無限に安定供給できる資源を確保することができれば、産業構造は大きく変わると思います。材料自体を自社工場(微生物培養)で作ることも可能になるかも知れません。

②「ぶつかっても人が怪我をしないクルマ」

トヨタ Kinetic Seat Concept
https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/13490539

2012年からSpiderとトヨタ自動車の協力企業で樹脂部品などを製造する自動車部品メーカーの小島プレス工業が共同で研究開発しているテーマです。「クモの糸は」本来は相反する特徴の「強さ」と「伸び」を併せ持つ素材のため、クルマの構造部材にに利用すれば「ぶつかっても怪我をしない車」ができるのではというアイディアです。これが本当に実現すれば事故で悲しむ人を減らせるようになる素晴らしい技術だと思います。

まとめ

クモの糸というと、現代の工業製品には関係ないと思うかも知れませんが、GFRPやガラス入り樹脂等の高機能樹脂の需要が高まっていることを考えれば、それに代わる材料として、タンパク質由来の材料が台頭してくる可能性は充分あると思います。自動車部品としての代替の研究も進んでいることから、近い将来、クモの糸配合の材料を加工する日が来るかも知れません。今後も注目し、動向を追っていきたいと思います。

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