「企業理念」そりゃああった方がいいよ

【執筆者紹介】熊坂 治
この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
熊坂 治 が執筆した他の記事をみる

ものづくりドットコムの熊坂です。

5月25日に名古屋で開催された日本経営工学会春季大会で、学会特別賞(経営工学実践賞)をいただきました。

一応学会員なのですが、さして華々しい活躍をしているわけでもないので大変驚きましたが、よくよく考えてみれば、ものづくりドットコムや経革広場などで、こうやって経営工学的な話題を発信することで、結果的に学会の認知を高めており、ありがたくいただくことにしました。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワード、今回は「企業理念」を取り上げます。

企業理念の重要性

製造業に限定するわけではありませんが、組織が大きくなるに従い、社員の意思を統一することが難しくなってきます。単に生活の為に給料をもらえば良いという人、将来の夢に向かってキャリアを積もうとする人、企業内で実績を積んで組織を引っ張ろうとする人など、また企業に貢献するとしても、売り上げ重視、顧客重視、技術重視など、どれが間違いというわけでもありませんが、バラバラの考えでは、企業全体の能力は最大に発揮できません。

理想的には図1に示すように、企業理念が頂にあり、それを少し具体化(Visualize)したビジョンがあり、それを実行するために社員が取るべき行動指針があり、ビジョンを実現するための中期的な戦略があって、初めて日々の実務計画が設定されるべきです。

図1.方針展開のピラミッド

大きな企業であれば企業の中に複数の事業がありますから、事業ごとの戦略を設定したり、技術部、生産部、知財部といった機能毎の戦略を策定する場合もあるでしょう。

個人毎の考えに違いがあるにしても、こうやって設定された実行計画に沿って日々の仕事を遂行していれば、大枠では社員全員が同じ方向に進んでいくこととなり、大きな力を発揮することができるわけです。

企業理念の要件

J.コリンズの「ビジョナリーカンパニー」には、調査した長寿命優良企業は、設立当初からしっかりした理念があったという記述があります。企業理念に含まれるべき要件を図2に示します。

図2.企業理念の要件

第1は「自社の存在意義」です。会社を設立する時には、組織での活動内容をある程度イメージしているはずで、それを社会に対する視点で記述します。企業の維持、成長には外部と従業員の協力が不可欠です。社会に対する立場を明確にすることで、協力者が現れ、従業員の気持ちをまとめることができます。

第2は「自社の経営方針」です。第1項で宣言した意義を提供する方法とも言えます。大事にすべき考え、想いを端的に記述します。

第3は「社員の行動規範」です。日常の業務を遂行するにあたり、すべきこと、避けるべきこと、その考え方を規定します。

以上3つが必ず含まれるとは限りませんが、これらを意識して真に有効な理念を設定しましょう。

企業ミッションの設定

前項の「当社の存在意義」は。まさに企業価値の根幹です。これを考える3つの観点を図3に示します。

図3.企業ミッションの設定要件

一つ目はA:経営者と従業員が「情熱を持って取り組める」ものです。どんなに利益が得られようとも、嫌いな事業には限界があります。ましてや事業は想定外な障害の連続です。大きな困難が現れた時に、好きなことであれば頑張れますが、そうでなければ力が出ません。長く続けるには情熱が要るのです。

二つ目はB:「世界一になれる」ものです。事業には必ず競合がいます。いくら好きであっても、競合の方が自社より上手い場合は、なかなか思うような経営ができません。地域限定、製品のサブカテゴリ―など何でも良いので一番になれる領域で勝負することが重要です。

三つ目はC:「経済的原動力」になれるものです。いくらA好きでB得意であっても、それによって収益が得られなければ、それは趣味であって仕事とは言えません。事業費用に見合う収益を獲得できる目途が必要です。

事業を永続するためには、以上3つの条件を満たすところに企業価値を設定する必要がありますが、中でも重要なのはAではないでしょうか。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、自ら情熱を持って取り組めば、上達も早く、そうなれば協力者や、その価値にお金を払ってくれる人も現れるというものです。

企業理念は、会社を設立する時に必ず初めに用意すべきものでしょうか?それに越したことはないのですが、必ずしもそうはいかない場合もあるでしょう。また、運営しているうちに修正が必要になる場合もあるでしょう。頻繁に換えるのはいけませんが、時代の要請で本当に変更が必要な場合、数十年に一度変わることはあって良いように思います。是非これを機会に、皆さんの企業理念を再認識してみて下さい。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、平本靖夫さんが理念経営分野の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。  

この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
熊坂 治 が執筆した他の記事をみる

関連記事