Quirky(クァーキー)の成功要因と日本での可能性について考える(後編)
ものづくり経革広場の徳山です。
前回のブログではQuirky(クァーキー)の成功要因について考えてみました。(前編はこちら⇒https://keikakuhiroba-mfi.com/archives/1419)
今回は日本での可能性について考察します。そもそもQuirkyは日本に上陸するのか?
まずはQuirkyが日本に進出するメリット・デメリットをまとめてみました。
この記事の目次
Quirkyが日本に進出するメリット
①発明大国日本の発明アイディアを集められる
そもそも日本は本当に発明大国なのか?という議論はあるかと思います。
最近では日本人はイノベーションに弱いとも言われていますし、最近の日本メーカーは家電メーカーを中心にあまり元気がありません。
しかし、特許出願件数を見てみると、勢いに陰りは見えるものの、件数においてはアメリカを除く他国を圧倒しています。
※1995年~2007年の特許出願数推移
アメリカとの人口比を考えてみると、国民一人当たりの特許出願件数は日本が圧倒的に多いことは分かりますし、日本人は大昔から数多くの発明をしてきました(インスタントラーメン、LED、カラオケ・・・)。
単純ですが特許件数だけ見ると、日本人から発明アイディアを調達できることはQuirkyにとって大きなメリットになりそうです。
②GDP世界第3位の大きな市場
経済成長に衰えを感じるものの、日本は依然として世界トップクラスのGDPを誇っています。さらに一人当たりのGDPも高い水準にあり、中流層以上の収入を得ている消費者がたくさん集まっている市場と言えます。
Quirkyの製品は少量多品種で付加価値の高い商品が多く、ある程度経済が成熟している市場との方が相性が良いはずなので、日本とは相性が良いと考えられます。
まだ日本では知名度の低いQuirkyブランドですが、日本語版Quirkyを立上げ、商品開発の輪に加えることで日本の市場に本格参入していくことができるのではないでしょうか。
③メーカーの知的財産活用
今年に入ってGEがQuirkyと提携するというニュースが飛び込んできました。
その内容は、GEが所有している特許や技術をQuirkyに開放し、GEの持つ知的財産を活用した新商品をQuirkyユーザーに発想してもらおうという、新しい商品開発の取組みです。
先述したとおり、日本の特許取得件数は非常に多く、その多くをメーカーが所有しています。しかし、日本メーカーは知的財産の活用に苦戦していると言われており、新商品の開発にも苦労しています。日本のメーカーにとって、GEと同様の取組みができれば大きなメリットがありそうです。
メーカーの知的財産を活用した高付加価値な商品の開発、メーカーのファンを取り込むことによるユーザの拡大など・・・Quirkyにとっても様々なメリットが考えられます。
Quirkyが日本に進出する際のデメリット
①日本語版Quirkyを創っても、参加するのは日本人だけ
Quirkyは現状英語対応しかしていません。しかし、英語圏から会員を集められるので世界15億人(インターネット繋がらない地域も入ってますが…)が対象となり、グローバルに会員が集まっています。
しかし、日本語対応したとしても対象ユーザの限界は1億2000万人です。英語版がこれほど活性化している中、潜在ユーザの少ない地域のユーザを一から集め、ネットワークを築き上げていくほどのメリットがQuirky側にあるでしょうか。
先ほどのメリットの話と相反する話になりますから、どう判断するかはQuirky次第といったところでしょうか。
②大きな投資コストを要する
Quirkyの競争優位性を維持するためには、単純にサービスを日本語対応にするだけでは事足りないと思います。
Quirkyが競争優位を築くために人的資源やファシリティなどのハード面に大きな投資を行っている、という話は前回のブログでも書かせていただいた通りです。そうなると日本での競争優位を築くために日本の市場を知り尽くしたデザイナー、日本国内で試作品を作るための工場なども必要になるはずです(アイディアのみ調達するのであれば話は別ですが)。
投資コストで考える時に、TwitterやFacebookなどのWebサービス事業者が日本に進出する場合とは全く別物として考えた方が良いと思います。初期投資が大きく、参入障壁が高いビジネスモデルであることを忘れてはなりません。
以上のメリット・デメリットを比較した際に、特にデメリットの②がネックとなり、すぐに日本に進出することは無いのではないか、というのが私見です。
次に日本でQuirkyと同様のサービスが生まれ得るのか、という話です。
私は日本で同様のビジネスモデルを描いたとしても、Quirkyと同じスピードでビジネスをスケールさせるのは難しいのではないかと考えています。
なぜなら、前編でも書いたようにQuirkyの競争優位性はビジネスモデルといったソフトにあるのではなく、ハード面にあると考えているからです。ハード面とは具体的に人的リソースや工場などのファシリティのことを指しますが、これらの経営資源を獲得するには膨大な資金が必要となります。
Quirkyはベンチャーキャピタルから9000万ドル(約90億円!)もの出資を得ていますが、日本でこの額の出資を得るのは不可能に近いのではないかと思います。過去に9000万ドルもの大金をベンチャーキャピタルから出資してもらった国内のベンチャー企業は記憶にありません。
よって同様のアイディアが存在したとしても、それを育てるためのインフラ(資金調達手段)が整っていないことが原因で、日本ではQuirky並のスケールでビジネスを展開させるのは難しいのではないかと考えています。
しかし、私はQuirkyのようなプラットフォームが日本にこそ必要だと考えています。
前述したように、日本は世界最大の知的財産保有国ですが、その活用がうまく出来ていないのが問題と言われており、これは最先端のものづくり経営学を研究している賢人達も口を揃えて指摘している問題です。
その解決のためにも、QuirkyのようなプラットフォームをGEのように日本メーカーが活用できる日が来るのを期待しています。