Quirky(クァーキー)の成功要因と日本での可能性について考える(前編)
ものづくり経革広場の徳山です。
Quirky(クァーキー)というWebサービスをご存知でしょうか?
日常で思いつくちょっとしたアイディアを商品化できる「商品開発プラットフォーム」です。
アメリカで誕生したこのサービスは、現在会員数45万人(120カ国)を超える超巨大プラットフォームへと成長し、米クァーキー社はベンチャーキャピタル等から総額9,000万ドル(約90億円!)もの大金を調達しています。
今回はQuirky(クァーキー)の成功要因について考えてみました。
この記事の目次
まずはQuirky(クァーキー)の仕組みをご説明
発案者から投稿された商品アイディアは上記4つのSTEPを経て商品化されます。
商品が販売された売上は発案者に10~30%、有効なアドバイスを行ったユーザに数%(貢献度合いにより変化)、収益が還元される仕組みです。
ここから下記のようなプロダクトが開発され、全世界で販売されています。
「インターネットを使って消費者からアイディアを集め、世の中にない商品を生み出す」
このコンセプトのWebサービスは日本にも多数存在しました。しかし、どのサービスもこのQuirky(クァーキー)ほどの成功を挙げることができませんでした。
なぜQuirky(クァーキー)は成功できたのか?その理由を、過去に執筆した「空想生活に関してのブログ」の内容を思い出しつつ、下記3つにまとめてみました。
イノベーションを必要とする”商品アイディア”のみ、クラウドソーシングで調達
イノベーションはノウハウの蓄積ができません。むしろ経験値が不利に働くことがあります。
ですので、その活動をインターネットを使って外部から調達する、といったところは理にかなっていると思いますし、誰でも考えつくでしょう。
ところが、Quirky(クァーキー)が調達しているのはあくまで「商品アイディア」だけで、その他の活動をすべて内製化できるだけの経営資源を持ち合わせています。
他の類似サービスは、商品アイディアを募集し、デザインも募集し、場合によっては製造してくれる会社も募集し、と何でも外部から調達しようとするものが多いように見受けられます。
しかし、一つの商品を生み出すには強力なマネジメントを必要とします。上記のようにWebの世界だけで商品が開発できるほど甘いものではないはずです。
Quirky(クァーキー)はアイディアこそ募集しますが、次のSTEPに進んでからは、自社で商品化までの流れをすべて強力にマネジメントします。
そして、マネジメントすると言っても、単に「モノができるまで」を管理すれば良いという訳ではありません。
売れない商品ばかり作っていたらすぐに会社は潰れてしまいます。
いかに「売れる商品開発」をマネジメントできるかが勝負になってきます。アイディアも大事ですが、それ以外に重要な要素は山のようにあります。
大手メーカーであれば商品開発を行う際に必ず行うような、マーケティング調査、ブランディング戦略やプロモーション戦略の立案、試作品の開発などなど…
ここをどうマネジメントしているのか?ここにQuirky(クァーキー)の真の強みがあるように思います(2つ目の理由に繋がります)。
アイディア発想以外の活動(デザイン、マーケティング、製造、販売 etc.)を行うための充分な経営資源
商品開発のマネジメントを行う上で、様々な活動が必要になるのは上述した通りです。
Quirky(クァーキー)の真に恐ろしいところ。それはこの会社が単なるWebサービス会社ではないということです。
デザイン、マーケティング、製造、販売すべてにおいて、高度なノウハウとそれを支える経営資源を有しているのです。
・デザイン⇒受賞歴を持つような、元トップデザインコンサル会社出身の優秀なデザイナーを自社で抱えています。
・マーケティング⇒自社で元トップコンシュマーブランド出身のマーケッターを抱え、独自の基準によってアイディアを分析、商品が売れるだけの根拠を見出し、売れる戦略を立案します。
・製造⇒自社内で試作品を製造するための設備をすべて取り揃えています。彼らの工場には多くのデジタル工作機械が揃っており、3Dプリンタなんかはそれなりの機種のものを10台くらい持っているみたいです。
・販売⇒サイトから一定の予約数が入った商品のみ商品化します。ここである程度のリスクは回避できるのですが、それ以外にもネットとリアルの両方で多種多様のチャネルを持っています。
こちらの動画を見てください。彼らが競争優位性を高めるために行っている取組みがよく分かります。これだけの経営資源を揃えるに9000万ドルもの大金が必要になる訳です。
サイトを活性化させるための卓越した仕組み
ここはWebサービス事業者としての成功要因です。
Quirky(クァーキー)には毎週何百という商品アイディアが世界中から集まるそうですが、どうやってそのようなネットワークを構築できたのでしょうか。
Webのプラットフォーム理論でその理由に迫ってみたいと思います。
プラットフォーム戦略で成功している会社は”相互ネットワーク効果”を生み出すことで、利用者を急拡大をします。
相互ネットワーク効果とは、片方のユーザ群が増えれば増えるほど、もう片方のユーザ群のメリットが大きくなり、その循環をうまく回すことにより両者を急増させる効果のことです。
例えば、クックパッドであれば「レシピ投稿者」と「レシピ閲覧者」の間で相互ネットワーク効果が働いています。
レシピ投稿者は閲覧者が多ければ多いほど、レシピを載せる楽しみが増え(閲覧者からの反応を得られるので)、投稿を増やす動機付けとなります。
レシピ閲覧者はたくさんのレシピが載っているサイトを好みますから、レシピ投稿者(レシピ数)の多いサイトを利用する動機付けになります。
この両者がネットワーク効果を生み出し、広告にお金をかけなくても好循環によってどんどん規模を拡大します。
Quirky(クァーキー)ではアイディア発案者とコミュニティ(アイディアをブラッシュアップするユーザ)との間で相互ネットワーク効果が働いていると考えられます。
また、発案者だけでなくコミュニティへも商品化した後の収益が還元する「収益還元システム」こそがこの好循環をさらに加速させています。
この「収益還元システム」だけでなく、Quirky(クァーキー)にはユーザを楽しませるための仕掛けがたくさんあります。
制限期間を設けて焦らせたり、ランキングなどで競争原理を入れて競わせたり、販売予約システムによってユーザの購買を促したり…
様々な仕掛けがありこれらを起爆剤として、ネットワーク効果を高めているのでしょう。
少し長くなってしまったので、今回はこの辺で。
次回はQuirky(クァーキー)が日本で通用するのか?について考察します。