世界の製造業「メキシコの今」

こんにちは。ものづくり経革広場の橋本です。

アメリカのトランプ大統領が1月25日にメキシコとの国境上に3,200kmにも及ぶ壁を作る大統領令に署名しました。また、世界の主要自動車メーカーに対してメキシコへの新工場設立を批判。フォードはメキシコ新工場設立を撤回しアメリカのミシガン州で雇用を増やすことを決定しました。中南米の雄であり、今後の世界経済を牽引する存在として見られていたメキシコは今後どうなるのでしょうか。現状をまとめてみました。

メキシコ市場の概要

メキシコは1億2,700万人を超える人口を擁し、196万k㎡もの国土(日本の約5倍)を持ちます。メキシコの平均年齢は30歳を下回り、人口ピラミッドを見ても分かる通りかなり若い国だといえます。

国連サイトより作成)

産業構造は第一次産業3%、第二次産業30.9%、第三次産業66.1%となっています。自動車や電子製品を中心とした工業製品の輸出が8割以上を占めており、自動車部品メーカーの9割がメキシコに進出しています。2011年を転機に自動車業界はメキシコへの投資を急増、2013年時点で自動車分野での海外直接投資ではメキシコが中国を超えています。

主な日系企業:トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、マツダ、デンソー、曙ブレーキ、三菱電機、豊田合成、日本精工、愛三工業、東レ、八千代工業、日立化成、ブリヂストン、旭硝子など・・・

メキシコの強み

①NAFTAをはじめとした様々な国とのFTA(自由貿易協定)

46カ国とFTAを結んでおり、世界中で最もオープンな貿易政策を採用している国の一つです。世界最大規模のNAFTAという巨大な経済圏を抱えながら、積極的に他の国や地域との貿易拡大を図っています。主要先進国・地域と、ほとんどの製品を関税ゼロで輸出入ができます。また、関税メリットにより対内直接投資が増加し高い経済効果が生まれます。

②アメリカと国境を接しているという地理的要因

世界最大の経済大国であるアメリカに隣接し、北米と南米の中心に位置するという地理的優位性があります。自動車のような輸送コストが高い大型製品にとって、アメリカと隣接していることは大きなメリットとなります。

③安価な労働力

メキシコの労働コストはOECD諸国の中でも最低水準となっています。

(OECDより作成)

メキシコの弱み

地理的優位性や安価な労働力をもつメキシコですが、弱みもあります。

①アメリカへの依存体質

国内市場が弱く購買層が少ないため、アメリカ市場を頼りにしている構造となっています。主な理由として、所得格差があります。貧富の格差を測る指標にジニ係数というものがあります。0から1までの値をとり、分布が平等であれば0に近づき、不平等であれば1に近づく係数です。図からわかるように、OECD加盟国の中でチリについで2番目にジニ係数が高い値となっています。貧困層の多さが国内市場の弱さにつながっています。

(OECDより作成)

②未成熟な裾野産業

多くの自動車・自動車部品メーカーがメキシコに進出していますが、Tier2、Tier3レベルの企業が不足しています。また、樹脂や鋼材等の素材産業、金型や機械設備等の周辺産業も不足しています。そのため、中南米ではメキシコが圧倒的に現地調達率が低くなっています。

③電力コストの高さ

これまで石油・電力は国家独占 であったため、メキシコの電力料金はアメリカに比べて平均25%高いといわれていました。2013年12月に憲法改正が行われ、電力へ民間参入が可能になりましたが、電力コスト削減にはまだまだ道半ばといったところです。

④治安問題

メキシコといえば、思い浮かぶのは麻薬カルテルです。多くの組織が存在し、その危険性は安全へのコスト上昇につながります。麻薬ビジネスは莫大な金が動き、警察や軍隊も巻き込み汚職も誘発します。他国への進出時とはまた違ったリスクがあります。

メキシコのネット事情

メキシコの検索エンジンシェアはGoogleが90%超、Microsoftが提供するBingが5%程度です。インターネット普及率は57.43%ですが、10年前(5.08%)と比べると10倍以上に増加しています。しかし、まだまだインターネット環境は良好とはいえず、街中のWifiは多いものの利用者が増えるとすぐに切断されてしまうほど脆弱です。こういった事情からWebマーケティングでの競合は少ないと考えられるためチャンスでもあります。

メキシコのSNS事情はFacebookが圧倒的であり、次点でTwitterとなります。メキシコのFacebook利用者数は世界5位であり、18歳以上のFacebook利用者はおよそ7,000万人です。ホームページだけではなく、Facebookを活用したマーケティングも非常に有効だといえます。

メキシコに進出した中小企業

株式会社テイエスケイ

テイエスケイは愛知県小牧市に本社を置く金型メーカーです。自動車部品の樹脂、ゴム金型の設計、製造からメンテナンス、修理まで一貫して行なっています。2012年11月にTSK MOLDING MEXICOを設立し現地の日系自動車部品メーカーに供給しています。日本で金型の製図を行い、作成したデータをメキシコに送り現地で生産しています。

株式会社昭芝製作所

昭芝製作所は東京都練馬区に本社を置き、エアバッグやシートフレームなどのプレス部品を生産しています。2013年にSANSHO MEXICANA, S.A.de C.V. を設立し現地の日系自動車部品メーカーを中心に供給しています。

株式会社樋口製作所

樋口製作所は岐阜県各務ヶ原市に本社を置き、精密金属プレス加工を専門に行なっております。シートベルトやエアバッグなどの安全装置関連製品の製造に強みを持ちます。2013年にHiguchi Manufacturing Mexico S. DE R.L. DE C.V.を設立しました。エアバッグ、インフレータ部品、シートベルト関連部品を生産しています。

メキシコの今後

2016年11月、メキシコ中銀は経済成長率の見通しを下方修正しました。2017年は1.5~2.5%と前回予想(2.0~3.0%)から上限、下限とも0.5ポイント悪化。「世界的な経済成長や貿易に関する見通しが低下しているうえ、メキシコの原油生産も落ち込む」と説明しました。

IMFは1月16日に公表した世界経済見通しで2017年のメキシコGDP成長率見通し(2.3%)を0.6ポイント引き下げ、1.7%としました。

メキシコの輸出のうちアメリカは全体の80%近くを占めています。そのため、アメリカの政策による不確実性が顕著に影響します。トランプ大統領によるメキシコへの強硬姿勢が続くとなると、メキシコの今後の経済成長は更に悪化する可能性もあります。

しかし、これはアメリカ依存の脱却を図る良い機会かもしれません。また、電力コストも自由化が進められたことで解決に向かっています。生産規模の拡大があれば裾野産業の投資も行われる可能性もあります。安価な労働力や地理的優位性、産業構造から、メキシコは自社製品や技術を売り込むのではなく工場を建てる事を検討する国であると考えられます。素材、加工分野もまだまだ伸びしろがあると考えられるため、日本の中小製造業にとっても注視しておくべき国ではないでしょうか。

 

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