TREE PICKS開発秘話 〜笠原スプリング製作所 製品開発への挑戦②〜

ものづくり経革広場の徳山です。

1年ほど前に取材させていただいた笠原スプリング製作所さんが、「てのひらトング」に続く第二弾の自社製品開発を行った、とのことで再び取材にお邪魔いたしました。

TREE PICK

【執筆者紹介】徳山 正康
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徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
精密板金企業が「Webでの引き合い」を売上につなげることができた、たった一つの理由(ビジネス+IT)
製造業のSEO対策を基礎から解説、「加工事例」が超重要なワケとは(ビジネス+IT)
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第二段製品開発のきっかけは?

一度自社製品を手掛けると、よほどのロングセラー製品でない限り次々と製品を展開していかなければ一定の売上を確保することができません。てのひらトングだけでは売上が先細ってしまうので、次なる製品開発を行う決意をしました。今回も墨田区の製品開発プロジェクトを活用することにしました。

てのひらトングを販売する中で、製品ラインナップが揃っていると小売業者との関係も築きやすい、ということが分かりましたので「キッチン・テーブルウェア雑貨」というカテゴリで製品展開を行っていきたいと考えていました。前回の取材時にもお話しましたが、本業である加工の仕事も少なくなってきていたので、製品開発は会社の存続のためにも必要不可欠な活動になってきています。

セメントデザインプロデュースとの出会い

新製品の「TREE PICKS」を共同開発したセメントデザインプロデュースさん(以下、セメントさん)とは墨田区のプロジェクトで知り合いました。私が書いた申込の内容を見て、セメントさんとの面談を経てマッチングに至りました。墨田区のプロジェクトは、事業者がコラボレーターに申請し、コラボレーターが申込書類から事業者を選定し、面談した後に両者の意向が合えば製品開発に進んでいく、という流れで進んでいきます。

セメントさんからはいくつか新製品の提案があって、その中からどのような物を作っていくか決めていくという感じでした。TREE PICKSの原型の提案を何種類か頂き、その中で完成形になるまで、枝分かれ位置とか長さとかを細かく調整していき最終的にこの形に仕上がりました。セメントさんは大阪で飲食店も経営されているので、実際に商品の使い勝手を試作品で試したりしながら調整を行っていただいたようです。

lobby

↑TREE PICKS発売を記念したトークイベントの様子。

製造において難しかったポイント

てのひらトングは見た目がシンプルですが形状が複雑なので、それに比べれば今回のTREE PICKSはそれほど難しくなかったのでは、と思われがちですがそんなことはありませんでした。最初の問題は「素材」です。最初の試作品はごくごく普通のステンレスで製造してみたのですが、それだと長くて細いので簡単に曲がってしまい商品になりません。そこで素材を替えバネ素材を選定しました。硬さの違う何種類か素材選びをしました。

次に遭遇した問題は、加工負荷の高さです。硬くて細く周囲の長さがあるので、金型にかかる加工負荷がとても高いのです。もう1mm細かったらプレス加工だと不可能。鉄で同じものを作れば加工負荷は1/2〜1/3ぐらいですが硬いバネ素材を使ってこの加工負荷に耐え得る金型でなければなりません。

最後に出てきた問題は、量産試作の後加工(バリ取り)時に製品が曲がってしまうというものでした。バリ取りは手作業でなく機械で行うのですが、出てきた製品が波打ってしまったり、こちらもすぐには上手くいきませんでした。ですので、更に硬い素材を選び、ここは機械にかける仕上げの数量を減らすことで対応したので、当初予定したよりも原価率が上がってしまいました。

製造での苦労

↑左が旧材料を使った製品。手で簡単に曲がってしまう。

販売促進の展開

発売初期の段階はクラウドファンディングと展示会が主な販売促進の活動でした。料理教室の方などが興味持つケースが多かったですね。別事業で飲食店をやっている雑貨屋さんから声が掛かったり、という感じです。今後はホテルとかで使ってもらえるようにしたいです。

今回初めてクラウドファンディングに挑戦しましたが、あれば本当にやって良かったと思いました。単なる資金調達ではなくマーケティング活動の一環として大きな成果を挙げられたと感じています。フードスタイリストの方がインスタグラムで情報を拡散してくれたりしたので、思ってもいない人と繋がることができました。

それと、嬉しかったのはフロンティアすみだ塾(墨田区を中心とした経営者の勉強会ネットワーク)の経営者仲間の多くが支援をし、情報を拡散してくれたことです。Facebookで投稿したら40人以上の方がシェアしてくれるなど、普段の投稿では有り得ない数の人が協力をしてくれました。

クラウドファンディングでは出資してくれた3割ぐらいは知合い、7割は知らない人からの支援でした。それだけ多くの見知らぬ方へ広報ができたのは大きな成果だと感じています。数あるクラウドファンディングの中で「A-Port」を選んだ理由は、母体が朝日新聞なので新聞に掲載してもらえるのではないかと期待して。でも日刊工業新聞と読売新聞には載ったけど朝日新聞には載せてもらえませんでした(笑)。

ギフトショー

↑ギフトショー出展での一枚。

今後の展開について

セメントさんとは一緒にホテルに営業に行ったり、引き続き販路開拓も一緒に後押ししてくれるようなので、頑張って売っていきたいと考えています。ツリーピックで盛り付けられた料理がテーブルに並ぶと華やかになります。一般の御家庭のホームパーティーや飲食店さんで使って頂けるとうれしいです。また、第三弾の製品開発を行うべく墨田区の製品開発プロジェクトには今年も申込予定です。

tree pick

☆TREE PICKSは下記サイトからご購入いただけます☆

http://kasahara-spring.com/treepicks.html

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徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

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